シンガポールには現在、30社を超えるデータセンター事業者が進出している。彼らの狙いは何なのか。米アマゾン・ウェブ・サービシズや米エクイニクス、米サヴィス・コミュニケーションズ、米デジタル・リアルティ・トラスト、印タタコミュニケーションズといったデータセンター事業者に話を聞いた。



 シンガポールには、「データセンターホールセラー(卸売業)」をはじめとする、様々な業態のデータセンター事業者が集まっている。今回は、その中でも8社に話を聞くことができた。データセンターホールセラーは、米デジタル・リアルティ・トラストと英グローバルスイッチの2社。「データセンターリテーラー(小売業)」は米エクイニクスと米サヴィスの2社だ。

 「クラウド・サービス・プロバイダー」と「マネージド・サービス・プロバイダー」に関しては、米アマゾン・ウェブ・サービシズ、印タタコミュニケーションズ、KDDIシンガポール、富士通アジアの4社から話を聞いた。責任者へのインタビューを通じて、データセンター事業者各社の思惑や戦略を見ていこう。

米デジタル・リアルティ・トラスト:クリス・クマー氏

 シンガポールには現在、データセンターホールセラーが2社進出している。世界最大のデータセンターホールセラーである米デジタル・リアルティ・トラスト(Digital Realty Trust)と、イギリスの不動会社を親会社に持つ英グローバルスイッチだ。

 デジタル・リアルティ・トラストは、2010年12月に、シンガポールに進出した。同社がアジア市場に進出するのは、これが初めてだ。同社アジア太平洋地域部門のトップで、バイスプレジデントを務めるクリス・クマー(Kris Kumar)氏に話を聞いた。

「データセンターホールセラー」は、日本企業にとって、なじみのない業態です。

クマー氏:我々データセンターホールセラーは、電力設備や冷却設備が整ったデータセンタービルディングを用意して、顧客のニーズに合わせたフロアを貸し出すという事業者だ。当社はホールセラーとして世界最大で、顧客には大手データセンター事業者である米サヴィスや米エクイニクスなどが名を連ねている。

 顧客は我々ホールセラーを使うことで、その土地のデータセンター市場に、迅速に参入できるようになる。我々が貸し出すのはフロアだけで、人手は貸さない。逆に言えば、顧客はデータセンターに必要な環境全てをコントロールできる。

 我々が目指すのは、データセンターの「工業化」だ。我々は、データセンターの内部を「モジュラー」と呼ぶ単位で標準化している。電源や空調設備は、モジュラーごとに用意されている。顧客が施設を借りるのも、我々が増設するのも、このモジュラー単位になる。モジュラー構造を採用することで、データセンターの貸し出しや拡張が容易になり、顧客に対してデータセンターを「ユーティリティー」として供給できるようになった。

シンガポールに進出した理由は?

クマー氏:アジア太平洋地域のデータセンター市場に、高い成長が見込めるからだ。我々は今回、シンガポールの不動産事業者であるジャパンランド(Japan Land)が建造したデータセンターを買い取り、自社設備「ジュロンイーストデータセンター」(写真1)に改装した。

写真1●米デジタル・リアルティ・トラストの「ジュロンイーストデータセンター」
写真1●米デジタル・リアルティ・トラストの「ジュロンイーストデータセンター」
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 ジュロンイーストデータセンターの床面積は3万4500平方メートルに達する。総電力供給量は48メガワットで、30メガワットがサーバーなどのIT機器用、18メガワットが冷却設備用だ。6~7万台のサーバーが運用できる計算だ。