シンガポール経済開発庁によると、同国には現在、30社以上のデ ータセンター事業者が進出している。企業が借りられるサーバール ームの面積は、東京ドーム4個分に相当する18万6000平方メートルを超える。

 なぜ、シンガポールにデータセンターが集まるのか。シンガポールに進出したデータセンター事業者やユーザー企業の取材から、次の四つの理由が浮かび上がってくる。(1)電力や通信インフラが充実している、(2)データセンターの卸売業の存在、(3)手厚い政府の支援、(4)ITベンダーの主要拠点があることーーである。

東京より優れているインフラ

 データセンターを設置する上で重要な要素が、電力事情と通信環境だ。東京と比較した場合、この二つの条件はシンガポールのほうが優れている。

 例えば、停電回数と時間を調べてみると、シンガポールは年間0.01回(年間0.5分)であるのに対し、東京は年間0.12回(同3分)だ。さらにシンガポールは、電力供給量の4割が余っている。電力を消費するデータセンターが集中しても困ることはない。

 シンガポールは東南アジアの通信ハブであり、主要な通信事業者の海底ケーブルが陸揚げされている。新興市場であるインドへも、海底ケーブルが直通している。シンガポールはASEANやインドへのゲートウエイである。

 印タタコミュニケーションズのデイビッド・ワート シニア・バイス・プレジデントは、「インド進出を考えている企業は、シンガポ ールでシステムを運用するケースが多い」と、同地にデータセンタ ーを構える利点を強調する。

水平分業で初期投資を抑える

表3●3階層に分けられるデータセンター事業者
表3●3階層に分けられるデータセンター事業者
データセンター業界は「水平分業」が進んでいる。データセンターホールセラーやリテーラーから施設を借りることで、市場に参入するデータセンター事業者も増えている
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 シンガポールにデータセンターが集まるもう一つの理由が、「データセンターホールセラー」や「データセンターリテーラー」の存在である(表3)。

 データセンター事業者に対して、電力設備や冷却設備が整った建物をフロア単位で貸し出す、いわばデータセンターの卸売業である。これらのサービスを活用すれば、初期投資を抑えつつ、しかも短期間で、クラウド関連ビジネスをスタートできる。専業のホールセラーが進出しているのは、アジアのなかでもシンガポールだけだ。

 ホールセラーである英グローバルスイッチのマーク・オブライエン アジア太平洋部門CEO(最高経営責任者)は、「シンガポールに進出しているクラウド事業者やITベンダーの多くが、自社でデータセンターを建造せず、ホールセラーやリテーラーから施設を借りている」と、その実態を明かす。事実、日本の事業者ではNTTコミュニケーションズと富士通が、ホールセラーやリテーラーから施設を借りて、サービスをシンガポールで提供している。

 ホールセラーがデータセンターを用意し、海外のITベンダーやユーザー企業を呼び込む。利用企業が集まるから、ホールセラーは新たにデータセンターを設ける、という好循環がシンガポールで起きているのだ。

 ホールセラーである米デジタル・リアルティ・トラストは、2010年12月に、床面積3万4500平方メートル、5万~7万台のサーバーが収納できるデータセンターを開業した。

 さらにシンガポール政府は2014年までに、「データセンターパーク」を建設する計画だ。同パークは、データセンターを5~6棟建設可能で、床面積の合計は12万平方メートルを超える。供給できる電力量は合計192メガワットで、最大で30万~40万台のサーバーを運用できるようになる。