IFRS(国際会計基準)を自国の会計基準として採用する「強制適用(アドプション)」の方法は国によって異なる。日本の任意適用の企業が採用するIFRSは、金融庁が指定した「指定国際会計基準」である。こうした基準ごとに自国で採用するかどうかを決めるやり方に対して、米ライス大学のスティーブン・ゼフ教授は「比較可能性を損ねる恐れがある」と指摘する。


写真●米ライス大学のスティーブン・ゼフ教授
写真●米ライス大学のスティーブン・ゼフ教授
写真:萩原 丈司
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 ゼフ教授が「特に比較可能性を損ねる恐れがある」とするのが、日本のように基準ごとに自国で採用するかどうかを検討して決定する方法だ。その理由として、ゼフ教授が挙げるのはカーブアウトの問題である。

 カーブアウトは、強制適用になった場合でもIFRSの一部の会計基準を採用しないことを指す。基準ごとに採用の可否を決めた場合、規制機関が「カーブアウトの実施を選択できる」(ゼフ教授)。この点をゼフ教授は問題視している。

EUは金融商品に関してカーブアウトを実施

 基準ごとに採用の可否を決める方針を採る場合、新しいIFRSが策定されたり変更されたりした場合に、自国の状況を鑑みて特定の基準の採用が遅れる、一部の基準を適用しないといったカーブアウトが起こっているとゼフ教授は指摘する。

 例として、EU(欧州連合)やオーストラリアを挙げる。2005年からIFRSを強制適用しているEUの場合、「金融商品関連の会計基準でカーブアウトを実施している」とゼフ教授は話す。

 EUは、民間団体である欧州財務報告諮問グループが会計の技術的側面から、加盟27カ国の政府の代表で構成する会計規制委員会が政治的側面からそれぞれ助言して、会計基準ごとに採用するかどうかを承認する。「政治的な干渉や、フランスの銀行の主張によりカーブアウトが認められた」とゼフ教授は説明する。