IFRS(国際会計基準)を自国の会計基準として採用する方法は「強制適用(アドプション)」と呼ばれる。日本は2012年に強制適用の可否を判断し、強制適用を実施する場合は「2015年または2016年から」と金融庁は表明している。米ライス大学のスティーブン・ゼフ教授は「“強制適用”の中身は国によって異なる」と指摘する。

 金融庁が日本の上場企業に対して、IFRS(国際会計基準)の強制適用の可否を決めるのは2012年。強制適用の判断に先駆けて2010年3月期からは、金融庁が掲げる条件を満たした企業に限って、任意にIFRSを適用できるようになった。条件とは、「IFRSに基づいた財務諸表を作成する知識を有する役員や使用人がいて、連結財務諸表を適正に作成できる体制を整備している」「外国に資本金20億円以上の子会社を有している」といったものだ。

 10年3月期には日本電波工業が日本企業第1号として任意適用を実施。11年3月期には住友商事とHOYA、そして12年3月期からは日本板硝子がIFRSの任意適用を始めると表明した。

 では、こうした任意適用の企業が採用するのは、どのようなIFRSだろうか。IFRSを策定しているIASB(国際会計基準審議会)が公表したIFRS(IFRSの前身の会計基準であるIASを含む)をそのまま利用しているのだろうか。

日本企業が任意適用するのは「指定国際基準」

 IFRSを任意適用する日本企業が採用しているのは「指定国際会計基準」である。金融庁が内閣府令などを通じて“指定”したIFRSのことだ。

 IFRSは「収益認識」「金融商品」「リース」など、テーマごとの会計基準の集合体である。日本では金融庁がIFRSの基準を一つひとつ検討して、指定国際会計基準とするかどうかを決める。

 このような手順で指定国際会計基準として採用を決めたIFRSを、日本企業は任意適用することになる。IFRSの強制適用が決まった場合も、金融庁は指定国際会計基準の適用を求めるとみられる。

 任意適用する日本企業にとって、IASBが公表したIFRSを受け入れることと、金融庁が指定国際会計基準としたIFRSを受け入れることに、現状では大きな差はないといえる。IASBが公表したIFRSすべてが指定国際会計基準となっているからだ。

 だが、今後もすべてのIFRSの基準が指定国際会計基準となるかは分からない。むしろそうならないと見るべきだろう。IASBが公表したIFRSをそのまま受け入れるのと、自国の規制機関がいったん検討してから受け入れるのでは、大きく異なる結果を生み出す可能性が高い。しかし、どちらも「IFRSの強制適用」なのである。