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第5回 水面下の動き
出典:日経コンピュータ 2007年6月11日号
pp.132-135
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
今年の夏は、地球温暖化を証明するかのような暑さだった。しかし9月に入ると朝夕はさすがに涼しい風が吹くようになり、季節の移り変わりを感じさせる。JUAS産業の社内も、社長交代に伴う大幅な部門統廃合の「熱い夏」が終わり、ようやく落ち着きを取り戻そうとしている。 浦山社長はIT経費削減を命じたが、すぐ何とかなるものではないことは、浦山自身がよく知っていた。IT経費は運用経費が全体の半分近くを占め、開発を全部やめても経費はそんなに減らない。放っておけば際限なく増えていく性質を持つ。大規模プロジェクトの後は特にそうだ。前年予算が大きいから、つい気前がよくなり、無駄な機能の開発に走りやすい。いわゆる予算の消化である。これを防止するために、現場に活を入れたつもりなのだ。 CIOの福井は違うベクトルで動いていた。彼は、浦山社長の経費節減の掛け声を自分の野心をかなえる絶好の機会ととらえた。そして、経費節減の切り札といえる情報子会社設立の道を突き進もうとしている。しかし、頼りの金山に情報子会社の構想をあっさり否定され、自ら動くしか方法はなくなった。だが、現実に何をすれば計画が進むのか見当すらつかない。 浦山社長に相談するわけにはいかない。浦山は福井に比べれば、はるかにITに強いから、賛成するかもしれないが、浦山が主導権をとるに違いない。それでは福井の手柄にならない。 これはやっぱりベンダーに催促するしかないか。こちらから声を掛ければ、交渉の主導権を相手に握られる。駆け引きとしてはまずいやり方だ。 数日考えた末、意を決して、ヤマト事務機の宮原に電話をかけて、探りを入れてみることにした。 「おお、福井部長。取締役就任おめでとうございます。こちらからごあいさつすべきところ恐縮です」と、のん気な反応が返ってきた。 「実は例の件です。話を詰めたいのですが、時間をとってくれますか」 「例の件? ああ、共同出資会社のこと? これはこれは。お父上のご病気でお話しするのをご遠慮申し上げておりました。そちらからお話があるとは考えておりませんでした。光栄です。早速うかがいます」 「いや、会社ではちょっと…」 「ああ、そうでしたね。そうだ、明日、東京国際フォーラムで弊社主催のシンポジウムがあります。そこにいらっしゃいませんか。受付でお待ちしておりますよ」 なるほど、これなら誰にも疑われないと福井は感心した。 9時50分。有楽町の東京国際フォーラムは、残暑のなかでもスーツ姿で会場に急ぐビジネスマンが目立った。福井システム企画部長が会場の受付の列に近付こうとしたところをヤマト事務機の宮原営業部長が後ろから声を掛け、福井を待たせてあった車に乗せた。 助手席には女性が乗っていた。営業で部長の秘書も兼ねている柿川友子である。 「柿川です。面識がないというので私が迎えに行きましたが、彼女は以前JUAS産業さんの担当だったんですよ」 「これはこれは」と福井。端麗な横顔に目を奪われている。 「申し訳ございません。乗ったままで大変失礼いたします。ごあいさつは改めて降りてからさせていただきます」と柿川は恐縮する。 「今日はご紹介したい会社がありまして、お話はそこで…」 宮原は運転手に指示し、車は、JRのガードをくぐって、日本橋方面に向かった。
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