いよいよこの連載も残るところ2回となった。過去18回の連載内容を踏まえて、IT業界の行く末をまとめたい。

 時代はますます混迷の色を深めていくだろう。IT企業も生き残りを賭けた重要な時期をこれから迎える。この連載が中小システム会社の経営者の羅針盤となれることを祈って、IT業界の今後を洞察する。

2011年のIT業界

 マクロ経済の流れから概観すると、2011年の市況は秋口(9月後半から10月ごろ)までは安定するだろう。輸出関連の製造業を中心に設備投資は回復していく(編集部注:東日本大震災が起こる前、2011年2月以前の分析に基づいています)。

 この影響はIT投資にも及ぶ。事実、当社(船井総合研究所)の支援先であるシステム会社の多くが、2010年末から2011年頭にかけて一気に業績を回復させた。

 一方、多重下請け構造は崩壊する。景気は回復しても、顧客企業はIT投資に対する慎重な姿勢を変えないだろう。大手システムインテグレーターの受注は引き続き苦戦するはずだ。稟議商談はいっこうに減らず、成約期間は長期化したままだ。

 加えてクラウドコンピューティングの大波も止まらない。所有から利用へとシステムに求める要素が変化する。

 利用とは効果だ。投資対効果が不明確な投資は、決裁を得られない。利用に価値を置くビジネスが主流になると、大手システムインテグレーターのビジネスはいっそう厳しくなる。これにより下請けに流れる仕事量は減るし、人月単価の下落も続くだろう。結果として今の多重下請け構造は維持できなくなる。

 こうした状況下で、中小システム会社が生き残るためには、新規顧客を開拓するしかない。下請けからの脱却が最重要課題だ。

 本連載では、下請け脱却のためのヒントを数多く提供してきた。連載3回と4回で紹介した「顧客開拓10の原則」もその一つだ。表1にポイントを整理したので、改めて確認してほしい。中でも「売れている商品を持つ」「マーケティングとセールスを分離する」「マーケティングを強化する」の3項目はすぐに実践できる。

表1●顧客開拓10の原則
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表1●顧客開拓10の原則

 連載5回と6回では、新規開拓の有効な手段であるテレアポを紹介した。ローコストで継続的・能動的に実施可能な顧客開拓の手法の一つである。これは顧客開拓10の原則にあるプッシュ型の集客となる。認知度が低い商品を扱っている場合は特に有効である。日々の結果が定量的に把握できる。仕組みの構築方法も解説したので、ぜひとも再読してほしい。

 一方、プル型の集客手段としては、連載7回と8回で引き合いを最大化するWebサイトについて解説した。顧客側のニーズが明確である場合、Webサイトの作り方と検索エンジン対策で引き合いが自然と増える。

 これまでの連載で説明してきたように、見込み客作りは会社の責任である。テレアポにしてもWebサイトにしても、自社の商品や取引したい顧客の属性に応じた仕組み作りを徹底してほしい。