これまで連載前半では、主に「集客」に焦点を当てて論を進めてきた。そこで、ここからの数回は「営業の仕組み」をテーマに話を進めたい。なぜ今、営業の仕組みを変える必要があるのか、どうすれば今の時代に適応する仕組みを構築できるのかを解説していく。

変化を強いられる「個人営業」

 他の業界と同じくIT業界でも、営業の活性化は重要な経営課題だ。「ソリューション営業への転換」が叫ばれて久しいが、まだまだ「個人の営業力」に依存したスタイルが主流である。だが、それでは成約率はなかなか上がらない。

 なぜ成約率が上がらないのか。理由は「個人営業」の限界にある。IT業界の営業の現場を取り巻く状況の変化が個人営業を許さなくなってきたと言い換えることも可能だろう(図1)。

図1●IT業界の営業の現場を取り巻く状況の変化
図1●IT業界の営業の現場を取り巻く状況の変化
[画像のクリックで拡大表示]

 これまでIT業界では、ブランド力や商品力が主な購買検討基準だった。企業はITを業務効率化と競争力アップの源泉と信じ、システム投資を増やし続けてきたので、自然とブランド力のある大手企業や知名度のある商品が有利だった。要は扱う商品にブランド力や知名度があれば、個人営業でも十分に顧客のニーズに対応できたわけだ。

 しかし、市場の成熟と共に状況は変化し始めた。企業のシステム化が一巡し、今すぐ投資が必要な分野はほとんどなくなった。追い打ちをかけるように景気が悪化した。投資を手控える動きが広がり、企業はシステム投資の必要性を厳しく吟味するようになった。

 今やほとんどの顧客はITに対して明確なニーズを持たない。ニーズがあったとしても、商品の知名度や提供企業のブランド力だけで投資を決定する顧客はほとんどいない。こうした状況下では顧客が持つこだわりに応えられないと、顧客はシステムの必要性を認識してくれない。

 顧客のニーズを抽出し、成約までの最適なシナリオを描く――。今まで当たり前に進めてきた一連のプロセスを、営業担当者個人の感性で進めていくのはもう限界だ。だから成約率はどんどん悪化していく。こうした現状を打破するための仕組みが「チームセールス」である。

チームセールスは「仕組み」

 チームセールスは成約率を高める営業の仕組みの総称と考えると理解しやすい。具体的には、一つの市場をチーム全員で攻略していくことを指す。その際に営業担当者一人ひとりの感性に任せるのではなく、一定の戦略に基づきチームで行動するのがポイントだ。営業担当者だけではなく、販売をサポートする部門(企画や販売推進)や提案をサポートする部門(開発など)の担当者もチームに参加し、役割を分担しながら営業活動を進めていくのが基本である。

 チームセールスを推進するうえでは、BtoB(企業間取引)の新規営業につきものの二つの大きな壁を乗り越えなければならない。「取引口座開設の壁」と「決裁者への提案機会の壁」である(図2)。不況になると顧客は取引先を絞る傾向が強まるので、「取引口座開設の壁」は好況期よりも高くなっている。加えて連載1~2回でも説明したように現場の担当者ではなく経営陣が決済権を握る稟議商談が増えたため、「決裁者への提案機会の壁」も高くなる。

図2●不況期の新規営業には二つの壁がある
図2●不況期の新規営業には二つの壁がある
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした厳しい環境下で二つの壁を突破し、チームセールスを成功させるには、どのような体制を敷くべきか。説明しよう。