前回は「不況」「周期」「市場の成熟化」の三つの要因が、IT業界に本質的な変化をもたらしていることを説明した。今のIT業界には、こうした変化が一気に押し寄せている。だからこそ、これまでのビジネスの発想では、時流に適応できない。どのような考え方を持つことが、これからの時代に適応するために重要かを説明しよう。

「購買動機」と「提案対象」の変化

 最近、中堅クラスのシステム会社の経営者に話を聞くと共通して出てくる言葉がある。「顧客の変化」がそれだ。これには、「属性別の購買動機の変化」と「提案対象の変化」の二つの意味がある。

 一つめの「属性別の購買動機の変化」とは、顧客の業種・業界や企業規模、事業構造によってIT投資に対する購買動機(買うきっかけとなるポイント)が変わってきたことを意味する。システムが全般的に未整備だったころなら、大きなテーマ(例えばERPやSCM)を喧伝するだけで、顧客の購買心理は盛り上がった。

 しかし、今では、そうしたテーマに反応する顧客は少ない。当然ながら顧客を取り巻く状況によって、課題は異なる。不況になればなるほど、顧客が抱える課題の解決を訴求できないと、購買に至らない。それが例え予算的に問題ない案件でも、稟議が通らない。

 二つめの「提案対象の変化」は、より根が深い。これまでシステム会社の営業対象は、情報システム部門や総務部門といったIT投資を検討する窓口だった。そして企業にはそれぞれ予算があり、その枠内であれば部門決裁で購買が可能だった。

 しかし、不況に突入したため、最近は100万円以上の案件はほとんどの顧客で稟議商談となっている。稟議商談になると、決裁者(提案する対象)はシステム部門や総務部門から経営陣に代わる。

 部門担当者であれば現場の改善や管理の容易さといった視点の提案も通用した。だが、経営陣相手ではそうはいかない。経営者に納得してもらえる提案が必須となる。

 経営者の視点は突き詰めると、「売り上げの拡大」か「コストの最適化」の二つだ。新規システムの提案を通じて、そのどちらをイメージさせられるかどうかが、受注に向けた大きなポイントとなる。