IT業界は今、大きな転換点に差し掛かっている。変化の時代を乗り切るためにシステム会社は何をすべきなのか。どうすれば厳しい環境を勝ち抜くことができるのか。中小システム会社へのコンサルティング経験が豊富な船井総合研究所ソフトハウス活性化チームが、不況に打ち勝つためのヒントを20回にわたって解説する。

 IT業界は今、大きな変化に直面している。2009年4月から11月にかけて、市場は40%も縮小した。2010年以降、少しは改善したが、それでも最盛期の80%程度が現状だろう。

 プライム(主契約)を取る元請け企業も厳しいが、下請け比率の高いシステム会社はさらに厳しい。恐らく下請け市場は2009年に前年より60%ほど落ち込んだ。2010年はさらにそこから40%ほど落ち込んだとみられる。無稼働分のソフト技術者の研修費用を補填する中小企業緊急安定助成金がなければ、倒産の憂き目に合っていたシステム会社は少なくないはずだ。

不況によって起きる変化

 不況というのは誰もが感じやすい環境の変化だ。しかし、実はIT業界で起こっている変化には、不況以外にもいくつかの要因がある。

 不況は一つめの要因にすぎない。日本の過去のサイクルを分析すると、不況は一般に4年半程度続いてきた。今回の不況も少なくとも2012年から2013年ごろまで続くと予想できる。

 となると、これからは不況という外部環境を前提に何をすべきかを考えるべきだ。当然だが、好況期と不況期では戦略の考え方が違う。

 不況期に突入すると、人は価格に対して厳しくなる。IT業界でも好景気と同程度の質を維持しながら、価格を30~40%下げる必要がある。これは不況期の特徴の一つだ。

 不況になると「不安」の心理がすべての行動の前提となる。当然ながら使える予算も削減される。すると必ず取引先の見直しが起こる。加えて、部門決裁できる予算額が減らされるので、「大切なお金は経営者が吟味して投資したい」という考えが起きる。

 その結果、多くの案件が稟議商談になる。そして、当然のことながら、投資判断の際には、無駄の排除と費用対効果がこれまで以上に重視される。こうした事象はすべて不況が引き起こすIT業界の変化である。

不況以外に起きる「周期」の変化

 IT業界にこれほど大きな変化が起こっている二つめの要因は「周期」にある。

 過去の年表から導き出したIT業界の基本的な周期を図1にまとめた。現在は「ソフトウエア」から「サービス」への転換期であることが分かる。

図1●IT業界の基本的な周期
図1●IT業界の基本的な周期
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 ソフトウエアの時代は2000年でピークを迎え、今は成熟期から衰退期に向かっている。そして2017年まで成長するのが、サービスの領域となる。

 事業戦略を考える上で、この周期という考え方は重要な意味を持つ。周期には、業界全体の構造を変えてしまう力があるからだ。

 例えば、ハードウエア全盛の時代には、ハードウエアを扱う「ディーラー」が全国各地に数多く存在していた。ところが、1983年をピークにソフトウエアの時代に変わると、物流網の整備もあって、ディーラーは急速に姿を消した。

 代わって現れたのがソフトハウスと呼ばれるソフト開発を主業務とする企業だ。背景にはハードからソフトへという周期の変化があった。

 加えてテクノロジーの周期も見逃せない。今や「クラウド」という言葉を聞かない日がないほど、クラウドコンピューティングは流行となっている。これをデータの「集中化」と「分散化」という周期の観点でとらえると、それが必然的な流れであることがわかる。

 周期の観点で見ると、クラウド元年は2009年だった。そして2024年までは集中の時代が続くだろう。今後は個別対応型のシステム開発マーケットは縮小していくこととなる。

 すでにPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)などのプラットフォームを利用して、開発工数を劇的に減らした企業が存在する。また、スマートフォンの領域は、データの集中化の最たるものである。今後はこの領域は成長していく可能性が高い。データの集中化という周期の流れからは必然である。