クラウドビジネスの事業計画でよくある間違いは、「当社のシステムは素晴らしいので、販売パートナーに拡販してもらい…」などという間接チャネルを重視した販売戦略です。しかし、クラウドビジネスではパートナー企業に頼りすぎるとうまくいきません。実際にはパートナーはあまり売ってくれないのが現実だからです。理由は大きく三つあります。

 一つは、クラウドサービスの単価は安いので、利ざやを抜けないことです。APSサービスは高くても月額50万円。平均的には月額5万円や、もっと低い会計クラウドなどは月額数千円。パートナーにとっては、サービスの金額が低すぎて販売手数料では儲けが出ないのです。いくらサービスが素晴らしくても、利ざやを抜けない低価格商材を販売パートナーは積極的に売ってくれません。

 パートナーが売ってくれない原因の二つ目は、ASPには高い販売・導入スキルとこだわりが必要だということです。服に例えるならば、ASPは標準体型に合わせたサイズMの既製服をすべての顧客に着てもらう商売です。一人一人の顧客の体型に合わせてオーダーメードで作り込むシステムではありません。顧客が「この服は私の体に合わない」という場合でも、「それは、あなたが太っているから」と指摘する勇気と、服に合わせてダイエットをさせる実務的なスキルが必要です。

 自社でシステムを開発していない販売パートナーは「この服は私の体に合わない」と顧客に言われると、「そうですね。服が悪いですよね」と引き下がってしまいがちです。客を太りすぎだと言い切ってダイエットを実行させるには、高度な業務ノウハウと、何よりシステムに対する強いこだわりおよび自負が必要です。それがないと、他のソリューションに逃げるので、直販ベンダーでないと売るのが難しいのが実情です。

 パートナーが売ってくれない理由の三つ目は、直販で実績のない商材はパートナーも売らないからです。クラウド企業によくある間違いは、自らが直販で本気で売って売れた実績もないのに、パートナー企業に売ってもらおうとするパターン。作った本人でさえ売れないようなシステムを他人は売れないという事実を賢いパートナーはよく分かっています。まずは直販で実績をあげて、その実績と売れる仕組みを販売パートナーに見せつけないと、有力な販売パートナーは動いてくれません。

 そもそも、パートナーチャネルでの販売を考えるようなクラウド企業は、マインドがテクノロジー系スタッフに偏りすぎているケースが多く、「システムさえ作れば、あとは机に座って腕組みしていれば儲かる」と勘違いしているケースが多いのです。ASPサービスになるような定型業務をシステム化するのは本来難しいことではなく、システムを作ってから直販でバリバリ売ることこそが大変で大切なのです。自ら直販でバリバリと売り歩く覚悟を強く持たなければ成功しないのがクラウドビジネスなのです。

入野 康隆(いりの やすたか)
リンジーコンサルティング 代表取締役
ASPIC主任研究員
リンジーコンサルティング 代表取締役 入野 康隆 東京大学法学部を休学しUniversity of British Columbia(カナダ)へ転入・卒業。ソフトウェア会社OracleでITコンサルタント、外資系コンサルティング会社Headstrongにて経営コンサルタントを経て、リンジーコンサルティングを設立。IT業界から宇宙ビジネスまで、数社のベンチャー企業、大手企業の取締役・顧問を務める。