単刀直入な書名である。出版社がつけたと思われるが、そもそもコンピュータは、事務や生産に関連する計算をしていた人たちの仕事を奪いながら組織に入っていったわけで、本来なら驚くような書名ではない。

 最終章で著者は「ホワイトカラーの仕事の半分弱をコンピュータが担うようになる」と書く。コンピュータの演算能力が向上して機械学習が可能になり、「どんなに芸術的、神がかり的に見える思考」であってもそれが「限られた探索空間における思考」である限り、コンピュータで代替できるからだ。さらに、消費者が個人情報をインターネットに開示して「直接生産者とつながる」ことにより仕事がなくなるという。

 著者は数学者であり、本書の狙いは以下の筋書きで数学の重要性を説くことにある。人間はコンピュータにできない仕事に注力する。それは物事をよく見て考え、何かを思い、問題点を抽出したり、何らかのモデルを作ったりすることである。さらに「思いをプログラムに落とし込」む。この仕事も人間にしかできない。思いを情報システムの専門家に手渡すにあたって「数学のこの考え方が使えるのではないか」と言うために、数学の意味を理解できる能力が求められる。

 こうした主張を展開するために、数学史から機械翻訳やクラウド(CloudではなくCrowd)ソーシングの最新動向に至る様々な話題が引用され楽しく読める。記述は分かりやすく、高校生でも読み通せるだろう。

 本書は想定読者を言及しないが、出版社を考えると一般のビジネスパーソン向けであろう。そうした本書は、情報システムのプロであるITpro読者にとって二つの意味がある。一つは、情報システムにかかわる仕事の価値を再確認できること。イノベーションを考えるのは人間だが、実践にあたってコンピュータは不可欠である。「発注者側には、コンピュータに何をさせたいかぼんやりとしたイメージはあっても、それを論理的に表現する力が欠如している」「無理な(システムの)仕様を考える人は、組織のお金を蕩尽(とうじん)します」など、情報システムのプロが嬉しくなる表現が出てくる。もう一つは、内省するきっかけになること。コンピュータが得意とする「パターンに落とし込める仕事」は、実は情報システムの仕事の現場にも相当あるからだ。

コンピュータが仕事を奪う

コンピュータが仕事を奪う
新井 紀子著
日本経済新聞出版社発行
1785円(税込)