筆者は2010年9月に「大阪維新」(角川SCC新書)を出版した。その後、マスコミ関係者などから様々なお便りやメールをいただいた。多数は賛同する趣旨のものだったが、素朴な疑問や根本的な疑問もお寄せいただいた。この場を通じて回答を試みたい。

問1:本当にONE大阪(大阪都)にしたら大阪経済は活性化するのか?

 行政制度や公共投資のあり方を変えるだけで経済は活性化するものではない。だが現状のままだと大阪の衰退は深刻化するだけだ。

 ONE大阪に切り替えると、少なくとも3つの効果が期待できる。

 ひとつは、今まで府と市がばらばらに行ってきた交通インフラなどの投資を、協調して集中的に加速できる(なにわ筋線、淀川左岸線高速など)。

 2つめは、大阪市が所有する膨大な資産が有効活用できる。併せて大胆な行政改革もできる。たとえば府と市の水道事業を統合すれば、老朽化して効率の悪い柴島(くにじま)浄水場が廃止できる(新大阪から至近距離)。ほかにもゴミ焼却施設など統廃合できる施設が目白押しである。

 3つめには、大阪の司令官を一人にすると、中央との政治折衝力が増す。東京や名古屋の首長と連携すれば、政権与党に対して、都市の成長戦略を進めるうえで必須の規制改革や権限委譲、あるいは特区指定を迫る政治力が得られる。

問2:ONE大阪を巡る論争は府と市のトップ同士のけんかにしか見えない。単なる権力闘争ではないか?

 府と市の行政部局同士はこれまでにも協調できる点では十分に協調してきた(イベント、観光集客など)。全国の他地域と比べても劣るものではない。

 しかし70年代から続く大阪の経済衰退と社会不安を直視した場合はどうか。あるいは上海やシンガポール、ソウルのダイナミックな都市戦略と比べるとあまりにも展開が遅い。最近は財政危機でますます二重投資の弊害が目立つ。今までの府市連携程度では全く不十分である。

 府のあり方にも改善の余地はある。だが大阪市のほうは政治体質に致命的な限界がある。大阪市政は、24区の中選挙区制で選ばれた議員(わずか3000票強で当選する人もいる)が率いる典型的な田舎の利権政治である。古くさい選挙制度が、狭い地域の目先の利益を追求する政治家を生んでしまうのである。

 その結果、大阪市は潤沢な資金と資産を保有するにもかかわらず、アジアと競争する大都市として行うべき成長戦略に向けた投資を行ってこなかった。例えば、新大阪―大阪駅北ヤード間や関西空港へのアクセス鉄道の建設をしなかった。代わりに、人口の少ない周辺東部に地下鉄今里筋線などを建設してきた。

 ONE大阪とは、狭い市域に限定した利権政治に陥っている今の大阪市役所の都市経営を是正し、都市戦略を再構築するために必須の基礎工事かつ外科手術である。

 なぜ府市の対話と協調ではなく、いきなり統合、都構想なのか。大阪の成長戦略への投資は歴代首長や行政パーソン、議員がこれまで30年議論し続けてきた。財界も主張し続けてきた。だが総論賛成、各論反対で、ほとんど進まなかった。これまでろくにできてこなかった大阪全体の成長戦略投資を、たかだか最近はやりの「熟議」で打開せよというのは、無責任な傍観者のコメントに過ぎず一顧だに値しない。

 府も市も企業で言えば破綻会社である。統合(合併)して事業効率を上げるのは当然である。投資も一本化する。だが企業と違って自治体は倒産しない。自発的な合併や統合は制度上も簡単ではなく、期待しにくい。また全国一律的な市町村合併のように国が指導してやれるものでもない。そもそも国には都市経営の洞察がない。敵対的であれ、何であれ、一方が片方に統合を迫る政治的なM&A、つまり選挙を経て民意を結集して行う組織統合が唯一の戦略である。