Android上のカメラアプリ開発を促進するイベント「Android Camera Forum 2011 in Tokyo」が2011年2月5日、都内で開催された。Android Appliaction Award(A3) 2010-11 Winterの一環として開かれたイベントである。人気カメラアプリ作者の講演、スマートフォン搭載カメラの心臓部を作っているソニーのイメージセンサ事業部によるデバイス動向説明、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのAndroid機のブランド戦略などの説明、それにスマートフォン実機でカメラアプリを試せる「タッチ&ビルド」、カメラアプリ作成のためのセミナーが行われた。

写真●Android Camera Forumの模様

まず付箋紙でUI設計、ToyCamera深津氏のアプリ作法

 最初の講演者は、iPhoneアプリ「ToyCamera」や「QuadCamera」作者の深津貴之氏。深津氏は、iPhone 向けカメラアプリを制作し、累計で約200万本が流通している。そのうち80万本は有料アプリだ。「今はiPhoneアプリを作ることで生活しています」と深津氏は語る。

写真●ToyCamera作者の深津貴之氏

 深津氏は、2008年7月にiPhone3Gが国内で発売された直後から、カメラアプリの開発を始めた。iPhone3G搭載カメラの性能は200万画素の固定焦点で、カメラとして高機能とは言えない。だが、ロシア製のコンパクトカメラ「Lomo(ロモ)」が、画質が悪いことから、逆に創造的な写真を撮れる機種と評価されて人気となっているのを見て、「カメラ性能が悪いことを長所にしたら面白いものが作れるのではないか」と考えた。ここから、大ヒットアプリとなった「ToyCamera」を始めとする一連のカメラアプリが生まれた。

 ToyCameraは、Lomoで撮影した写真のようなトイカメラ風のエフェクトを施すアプリ。QuadCameraは、連写した4枚の写真を1フレーム内に納めるアプリである。TiltShiftGenは、キヤノンの「TSレンズ」や大判カメラのアオリ機能のように、レンズの光軸を移動させるのに相当する効果を写真に施すことで、実写なのにミニチュア写真であるかのように加工できるアプリである。

 深津氏が紹介したアプリ作法は、興味深い内容だった。iPhone画面と同じサイズの付箋紙を使い、手書きで画面を書き込んでいく。いきなり高解像度ディスプレイでPhotoShopを使い画面を設計するのではなく、実物大の大きさに手書きで絵を描くことで、実際に指でタッチ操作するときの使い勝手を確かめながら、UI(ユーザー・インタフェース)を作っていく。

写真●深津氏のアプリ開発手法。手書きの紙に実寸でUIをスケッチし、操作性を確かめていく
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 このようにしてUIが固まってきたら、Flashでプロトタイプを作る。「二度手間になる」という見方もあるかもしれないが、このやり方を選ぶことには理由がある。まず深津氏は元々Flashの使い手だったので、Objective-CでiPhoneアプリを開発するのに比べ、Flashを使うことで5~10倍速く開発できるという。次に、Flashで作成したプロトタイプは、Web上でプロモーションに使える。Web上でデモして、評価が高かったものをiPhoneアプリとして実装する、というやり方を取ることができる。

 深津氏は「スマートフォンのカメラには、あまり高い解像度は必要ないのではないか」との問題意識を持っているという。一つは、スマートフォンで撮影した写真の主な使い道はソーシャルメディア(Twitter、Facebookなど)への投稿なので、それなりの解像度の写真であれば用が足りることがある。大きなサイズの写真では3G回線でアップロードする時間がかかりすぎる。また、本格的な高解像度の写真ではスマートフォン搭載のカメラはデジタル一眼レフにはかなわない。スマートフォンのカメラで写真を撮り、エフェクトをかけて楽しんだり、その場でソーシャルメディアへ投稿したりする使い方を考えると、画像サイズは大きすぎない方が取り扱いが容易ではある。このように、高解像度競争に走りがちな状況に疑問を投げかけた。