どんなプロジェクトであれ、人が集まって何か事をなそうとする場合、多かれ少なかれ「2:8(にはち)の法則」が成り立つ。2:8の法則とは「利益の80%は、わずか20%のリソースによって生み出される」という一種の経験則である。

 リチャード・コッチ氏(『人生を変える80対20の法則』の著者)に言わせれば、「10人の開発プロジェクトがあれば、わずか2人で全体量の80%を開発している」となる。少し言い過ぎのように思えるが、当たっている気がすると思うプロジェクトマネジャー(PM)は少なくないだろう。

 この2:8の法則の「2」に該当する優秀な技術者の中で、さらに「かけがえのない人」を作ってしまうと、時としてプロジェクトの破綻を招いてしまうことがある。

ITに詳しい利用部門Aさんのケース

 利用部門のAさんはIT部門出身だったので、業務もITも分かる「かけがえのない人」になった。その結果、プロジェクトはカットオーバーへたどり着くのに大変苦労したという話である。

 そのプロジェクトは元々、既存システムの老朽化に伴うハードウエアの刷新という目的でスタートした。要件を整理する中で、ハードウエアの刷新だけではなく、これを機会にオフコンで作られていたシステムをオープン系システムへ再構築しようということになった。

 再構築に当たっては、既存システムの利用者で業務要件を熟知しているAさんに参画をお願いすることになった。Aさんは業務要件に詳しいだけでなく、元々IT畑出身であったことからITにも明るく、プロジェクトとしてはこの上なく心強い味方であった。

 PMは要求仕様をとりまとめる段階からAさんに色々と相談し、仕様調整の細かい部分までAさんに頼った。その結果、基本設計が完了する頃になると、新システムの仕様についてはAさんの右に出る人はいない状況となっていたのである。

 Aさんの場合、システム利用者の立場でありながら、IT出身者の目でシステムを見ていた。通常の利用者とは明らかに異なる目線である。日々の業務の中で、システムとして改善すべき点を頭に描き、いずれ改修する必要があると考えていた。そんな中での今回のシステム再構築である。Aさんにとって渡りに船という状況だったのだ。

 そんなAさんだけあって、システムの細かい仕様まで完全に押さえていた。特に「なぜその機能が必要なのか」といった要求仕様の基本的事項については、Aさんの頭の中だけにある(もしくはごく簡単な説明だけが記載されている)といった具合であった。

 Aさんとしては自分が分かっていることは、他人も分かっている(または、分かってくれている)と考えていた。要求仕様のレビューについても、Aさんを中心に行うため、Aさんの暗黙知については誰も深く考えたことはなかったのである。まさに「余人を持って代え難い人材」となってしまっていたのだ。