ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 「企業財務会計士」という資格が新たにできるようである。監査証明業務を独占的に行うことができる現行の公認会計士とは異なる資格として、非監査サービスや監査の補助業務、企業内実務などに従事できる会計プロフェッショナルを認定するとしている。

 これは、2009年12月10日に当時の大塚耕平内閣府副大臣が座長となって開始した「公認会計士制度に関する懇談会」の結論である。この種の会合としては珍しく(?)、2011年1月までに会議を10回、開催している

待機合格者対策が狙い

 新たな認定資格を打ち出した背景には、「待機合格者」への対策がある。待機合格者とは、公認会計士試験に合格したにもかかわらず、資格を取得できない人たちを指す。公認会計士の資格を得るためには、短答式・論文式の試験に合格するだけでなく、監査または会計の実務経験を満たすことなどが必要になる。待機合格者は現在、1000数百人いると言われている。

 公認会計士試験の合格者は特に2007年以降、急増している()。2008年の合格者は3024人で、2006年の倍以上である。

表●公認会計士試験の合格者数
実施年2006年2007年2008年2009年2010年
合格者数1372人2695人3024人1916人1923人

 その原点は2002年12月に、当時の金融審議会公認会計士制度部会が出した報告書「公認会計士監査制度の充実・強化」にある。この報告書では、「公認会計士は、量的に拡大するとともに質的な向上も求められている監査証明業務の担い手として、また、拡大・多様化している監査証明業務以外の担い手として、さらには、企業などにおける専門的な実務の担い手として、重要な役割を担うことが一層求められている」との認識のもと、2018年前後には公認会計士を5万人規模にすることを計画していた。

 この報告書に基づき、2003年に公認会計士法が改正され、2006年に新制度に基づく試験が始まった。試験の合格者が急増したのは、これがきっかけである。ちなみに日本公認会計士協会の資料によると、2010年11月30日時点における同協会の会員数は3万72人である。内訳は公認会計士である正会員が2万1483人、公認会計士試験合格者などの準会員が8589人ということだ。

 ところが現状では、公認会計士に対する需要は想定をはるかに下回っている。企業など経済界への就職は進まず、主要な受け入れ先である監査法人でもJ-SOX(内部統制報告制度)関連のアドバイザリー業務が一段落するなどにより、採用数が減少している。これが待機合格者の増加という事態を招くに至った。

 公認会計士制度に関する懇談会では、「企業などで会計士の活躍の場を広げる」という趣旨で議論を開始した。監査法人だけでなく、企業側に従事することを積極的に推進しようという意図である。

会計リテラシーの低さが経営管理の脆弱さにつながる

 「企業などで会計士の活躍の場を広げる」としたこの懇談会の方向感は間違っていない。ただし、新たな認定資格を設けたとしても、企業側に受け入れる体制が整っていない限り、絵に描いた餅となってしまう。現時点では、その可能性が高いと思われる。

 欧米企業と異なり日本企業の会計リテラシーのレベルでは、いわゆる会計プロフェッショナルを多く求めていないというのが現状である。これが日本企業の経営管理の脆弱さの一因となっており、昨今のグローバル時代における本社機能の弱さとして表面化している。このことは、筆者の永年の米国企業勤務および会計コンサルタントの経験から痛感している。