中国で事業を拡大しようとする日系企業にとって、避けて通れないのが人材のリスクだ。例えば、日本と比べて中国では企業への帰属意識が希薄であるため、高い離職率やIT部員の不足などが顕在化している。対策を考え、実行するためにも、リスクの全貌を把握しておくことは欠かせない。

リスク1●高い離職率

 日系企業の現地法人幹部によると、中国の平均的な離職率は20%ほどという。日本の2010年1~6月の離職率(厚生労働省の雇用動向調査)と比較すると、10ポイント以上高い。一つの企業に長く勤める意識が日本人と比べて高くないことが一因だ。条件の良い転職先が見つかれば、すぐに辞めてしまう。日系企業にとっては、ITに関する知識やノウハウが現地法人に蓄積しないだけでなく、情報漏えいなどの課題に直面することになる。

リスク2●IT部員の不足

 「IT部員を十分に確保できない」。日系企業の現地法人幹部はこう口を揃える。このため、現地での情報システムの整備が計画通りに進まないケースも発生している。こうした事態を回避するため、日本郵船は2004年から、中国人留学生を日本に呼び寄せ、システム部門で働かせている。現地法人における、将来のIT部員の確保が狙いである。

リスク3●現地社員のITスキル不足

 ある日系企業では、現地社員が想定外の使い方をしたため、システムが異常停止する事態を招いたという。ITベンダーにシステム構築を発注する前に、操作画面のプロトタイプを現地社員に見せ、現地社員のITスキルに合ったシステムになるように注意すべきだろう。

リスク4●モチベーションの低下

 現地社員の幹部への登用が遅れると、モチベーションの低下を招く可能性がある。農業機械大手のクボタは、営業部門のトップである「副総経理」に現地社員を登用する施策を進めている。最近では、グローバルな人事制度を導入し、有望な現地社員を日本本社に呼び寄せる企業も出始めている。

リスク5●意思疎通が難しい

 意思疎通のズレから、現地社員が不満を溜め込むケースがある。言語や商習慣の違いが主な原因だ。ある製造大手は「積極的に現場に出向き、『日本人から学ぶべきことは多い』と現地社員に感じさせることができれば、おのずと意思疎通のズレは解消されるだろう」と指摘する。