2011年に入っても、内部告発サイト「ウィキリークス」による機密情報の暴露は一向に衰える気配を見せない。年明け直後の1月1日には、東京の米国大使館発とされる日本の調査捕鯨に関連する公電が公開され、大きな話題となった。

 連日のように世界中で報道されているウィキリークス関連のニュースだが、伝えられる内容はもっぱら暴露された情報そのものやウィキリークス創設者であるジュリアン・アサンジ氏の言動や動向、政治的な話題が中心となっている。多くの人が注目しているのはまさにこれらの話題であるから、このこと自体は至極当然である。

 しかし、それ以外の情報、例えば「ウィキリークスではどんな技術が使われているのか」や「ウィキリークスを潰したい人が山ほどいるのに、潰れないのはなぜか」、「告発者の匿名性をどうやって守っているのか」などについても知りたいと思っている人は少なからずいるはずだ。

 残念ながら、そうした技術面にフォーカスを当てた解説記事は日本国内ではほとんど見かけない。

 ウィキリークスという間違いなく歴史に名を残すインターネットの“サービス”が、いったいどんな技術や仕組みに支えられているのか。なぜ米国政府などによって潰されないのか---。基本となる技術をしっかり押さえておけば、ウィキリークスについてのこうした疑問が解消できるだけでなく、おそらく今後も起こるであろう同種の事件に対する洞察力なども身に付けられる。読み手に誤解を招かせたりするような、あいまいな二次情報に踊らされることも減るだろう。

 今回は、主に「なぜウィキリークスは潰されないのか」「どうやって匿名性を保っているのか」という2つの疑問に対して、裏で使われているインターネットの基本技術を手がかりとして、とことん技術的な視点から迫ってみる。ネットワーク関連技術に日常的に触れているエンジニアではない人でも読めるよう、極力平易な用語を使って解説する。

基本:ウィキリークスにアクセスするには「2つのアドレス情報」が必要

 突如として驚くべき情報が出てくることや、運営組織の素顔がほとんど見えないことなどから、ウィキリークスに対して得体の知れない亡霊のようなイメージを持っている人もいるかもしれない。だが、インターネット上に実在するデジタルデータである以上、間違いなく実体としての「アクセス先」が存在し、それは「物理的な配線や通信回線」でインターネットとつながっており、そこに到達するための「アドレス情報」が存在する。

 いくつかの理由により、それらが見えにくくなっているだけだ。
 ウィキリークスの実体に迫るうえで、まずは、最も基本となる情報である「アドレス情報」について知っておこう。ウィキリークスに限らず、インターネットのサイトやサービスにアクセスする場合、「IPアドレス」(参照)と「ドメイン名」という2つのアドレス情報が必要となる(図1)。

図1 目的のサイトにアクセスするには、IPアドレスとドメイン名の2つのアドレス情報が必要
図1 目的のサイトにアクセスするには、IPアドレスとドメイン名の2つのアドレス情報が必要
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