「巻き添え殺人」映像をはじめ、世界を震撼させたウィキリークスのメガトン級情報漏洩の情報源は、米軍の若きインテリジェンス分析官、ブラッドリー・マニングだとみられている。マニングとは何者なのか。なぜ祖国を危機に陥れてまで情報を漏らそうとしたのか。その人物像に迫る。

菅原 出/国際政治アナリスト


 「僕はイラクのバグダッド東部に派遣されている米陸軍のインテリジェンス分析官。もし、1日に14時間、1週間に7日間、8カ月間にわたって、前例のない秘密のネットワークにアクセスできるとしたら、君だったらどうする?」。

 「Bradass87」というオンライン名の何者かが、米カリフォルニア州に住む元ハッカー、エイドリアン・ラモとのチャット会話中、にわかには信じがたい話を始めた。2010年5月21日のことだ。

 オンライン情報誌『Wired.com』に元ハッカーであるラモが大きく紹介された後、ラモは「米陸軍で働き機密情報にアクセスできる者」と自己紹介をする「Bradass87」からEメールを受信し、この日初めて「Bradass87」とチャットで会話をした。

 「Bradass87」は、「2つの機密文書のネットワーク、秘密インターネット・プロトコル・ルーター・ネットワーク(SIPRNET)と統合世界規模諜報通信システムにアクセスするのが自分の仕事だ」と自己紹介した。

 この奇妙な告白を受けたラモは、5月23日に米軍に連絡をとり、その2日後には米国防総省犯罪捜査部の捜査官にメールのコピーを渡し、26日にはバグダッド郊外の前方作戦基地Hammerに派遣されていた22歳(当時)のインテリジェンス分析官、ブラッドリー・マニングが逮捕された。

 マニングはウィキリークスに「巻き添え殺人」映像を渡したことが確実視されており、それ以外にもアフガン戦争に関する機密資料、イラク戦争に関する機密資料、そして国務省の機密外交公電も、彼がウィキリークスに漏洩したと疑われている。

 要するに世界を震撼させたウィキリークスのメガトン級情報漏洩の情報源は、この若き米軍のインテリジェンス分析官だと考えられているのである。ウィキリークスの顔ジュリアン・アサンジについては既にたくさんの情報が出ているが、「陰の主役」であるブラッドリー・マニングについては、日本ではあまり多くは語られていないようだ。

 彼はなぜ米国の機密を漏らしたのだろうか? 彼の行為は祖国への裏切りなのだろうか?