IFRSの新リース基準が適用になると、クラウドコンピューティング環境もユーザー企業の「資産」となる可能性がある。会計基準も複雑になりそうだ。監査法人などへの取材からIT資産に対するIFRSの影響を探る。

 「クラウドを活用してIT資産を削減したい」と考えるユーザー企業にとって、このリース基準の変更は大きな影響を与える可能性がある。

 社内に設置しているサーバーをIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)に切り替えたとしよう。IaaS業者との契約がリースに相当するのであれば、従来の基準では通常、オペレーティングリース扱いとなる。

 契約に応じて費用を支払うだけで済み、IT資産としてバランスシ ート(貸借対照表)には計上しない。資産効率を追求したいシステム部門や経営陣には魅力的だ。

 ところが新リース基準の下ではリースの区別がなくなるので、同じケースでも資産計上が求められる可能性が高い。

利用状況ごとに判断が必要

 さらにやっかいなのは、新リース基準では会計処理が複雑になることだ。まずリースに該当するかを判断し、リースであればどのように自社の資産として評価するかを見極めていく必要がある。

 新基準では、リースを「特定の資産または資産群を使用する権利が、一定期間にわたり、対価と交換に移転される契約」と定義している。「特定の資産」とは例えば「貸し手がリース期間中に代替的な資産を提供することができない」状況にある資産のこと。「権利の移転」とは例えば「契約した資産に物理的にアクセスできる」状況にあることとしている。無形資産はリース基準の対象としないため、アプリケーションなどのソフトウエアは対象外となる()。

図1●IFRSの新リース基準の考え方
図●IFRSの新リース基準の考え方
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 システム部門はこうした定義に沿って、サービス別にリースに該当するかどうかを判断する。自社のサーバーを特定できるホスティングに近いIaaSなら「リース」、パブリッククラウドなら「該当しない」といった具合だ。

 サーバーが特定できる形で、自社向けにカスタマイズしたERP(統合基幹業務システム)をSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として利用する場合はどうか。ユーザー企業から見えるのは無形資産であるアプリケーションだが、「契約年数と金額から資産として計上すべきハードウエアの金額を割り出す方法が考えられる」と公認会計士は話す。

 こうした会計処理の判断は、企業それぞれの状況によって異なる。システム部門は監査人と話し合って対応策を考える必要がある。新リース基準はクラウドに限らず、サーバーやネットワーク機器などを、オペレーティングリースを利用して導入しているケースも対象になる。