大阪大学・大阪学院大学経済学部名誉教授の鬼木甫氏は、長年にわたって、経済学の観点から情報通信政策への提言を続けている。周波数帯の割り当てについては「場合によっては兆単位のお金が動く価値が周波数帯をタダであげるのは正義に反する。諸外国では周波数オークションは当たり前なのに、日本は極端な“オークション・ガラパゴス状態”」と指摘する。そんな鬼木氏に、今後日本でも議論になるであろうオークションの制度設計の論点などを聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション


日本は“オークション・ガラパゴス状態”という。世界の状況はどうなっているのか。

大阪大学・大阪学院大学名誉教授 情報経済研究所 代表取締役 所長 鬼木甫 氏
大阪大学・大阪学院大学名誉教授 情報経済研究所 代表取締役 所長 鬼木甫 氏

 OECD(経済協力開発機構)に加盟している34カ国のうち、ほんの数カ国以外はすべて周波数オークションを実施している。日本はその実施していないわずかな国の一つだ。世界では、オークション制度は有効な手段として認識されている。かつて周波数帯が余っていたときは、経済理論で言えば価格はゼロだが、携帯電話が始まり周波数帯が足りなくなってきた。足りなくなれば、値段が付くという認識が世界に広まり、オークション制度の導入が始まった。日本はその認識が一番遅れているのではないか。

オークション制度の利点は。

 二つある。一つは、高い透明性をもって周波数帯を割り当てることで競争を促進できる点。もう一つは、オークション収入によって所得を再分配できる点だ。オークション制度は、全く別のこの二つの方向に影響を与える。

 競争促進の点については、誰もが賛成するだろう。もう一つの所得の分け方には理論はなく、国民的な合意ができるかどうかになる。

 後者の考え方を整理する出発点としては、電波は誰の資産かをはっきりさせる必要がある。電波は土地とよく似ている。私有財産か国有財産か。さまざまな論点がある。

実際にオークションの制度設計をする際には、どんな論点があると考えられるか。

 (1)オークションの適用範囲、(2)オークション免許の有効期限、(3)オークション免許の譲渡・賃貸を認めるのか否か、(4)オークションの支払い方式、(5)オークション収入の使途、(6)オークションと電波利用料の関係の是正、(7)オークションにおける公平競争の在り方---など多数ある。

 例えば(2)のオークション免許の有効期限については、米国で実施されているオークションと欧州のオークションでは大きく考え方が異なる。米国の場合、一度オークションを実施すると、免許期間の5年が経過して同じ目的で免許を更新するときにはオークションを実施しない。つまり目的が変わらなければ、半永久的に使える。土地に例えると私有財産に近い。それに対して欧州の場合、半永久的ではなく15年ほどの免許期間が経過すれば、その後もう一度、オークションを実施する。土地の例では定期借地権型になっている。

 日本がどちらを選ぶのかは大きな論点になるだろう。私個人としては欧州型が適していると考えている。米国型の場合、最初のオークションがとても重要になり、落札額が高騰する可能性がある。また半永久的に使える権利となると、後に新しい制度を導入する際の障壁になる可能性がある。欧州型の場合、事業者には不安が生じ、ある程度ロスが生じるデメリットもあるが、相対的には欧州型のほうがよい。

 私の案は、15年の免許期間を設けて(現行は5年)、10年経ったら、次の周波数利用計画を作り、12年経ったところで次期免許人をオークションで選定する。ここで既存事業者がオークションに負けたら、設備を売り渡すなどすればよい。