米IP Devices代表
岸本 善一

 既存の電力網からスマートグリッドへの移行は、一筋縄ではいかない。今回は、移行するために解決しなければならない課題を挙げていこう。

課題:外部との接続

 家電、装置、IT機器などの機器は、これまで他の機器や外部と交信すること無く独立して作動していた。スマートグリッドが実現すると、すべての電気機器はネットワークに接続され、消費データや制御信号を交換することになる。

 例えば冷暖房の温度設定に使われるサーモスタットは、自らが計測する温度だけでなく、外部からの信号を受けて冷暖房を停止したり電力節減のため設定温度を上下したりするようになる。そのための要求・応答対応が求められる。信号を受信するためのネットワークプロトコルや制御信号の中身を理解する機能が、新たに必要となる。

 オンサイトでの発電も同様である。オンサイトでの発電は、これまで大規模な工場や金融機関のデータセンターなど限られた場所、限られた用途で使われることが多かった。しかし、スマートグリッドを前提とすると、外部と接続することを前提に設計し直す必要も出てくる。電力の安定化や制御はもちろん、外部の電力網とのインタフェースも新たに考えなければならない。交流電力を生成する場合はそのまま外部と接続できるが、直流の場合はいったん交流に変換する必要がある。

課題:電力の安定的な供給

 家庭や工場内で発電した電気と、電力会社の配電網との間の電気の流れは一方向ではない。太陽光発電の場合、昼間は外部の電力網に余剰電力を供給し、夜間は外部の電力網から供給を受けることになるだろう。

 コミュニティをひとつのプレミスとして考えるマイクログリッドでも、同じ問題を抱える。マイクログリッドに最も都合のよい方式は、マイクログリッド内での発電量が十分なときは外部の電力網と切り離し、不足する場合にのみ外部電力網から電力供給を受けることである。

 電力会社にしてみれば供給量の予測が難しい。こういった状況を実時間でモニターして需要と電力会社の供給能力とに応じて高度に制御しなければならなくなる。また、課金や支払い(Net Meteringと呼ばれる)もサポートする必要がある。

 蓄電器の性能が向上すれば、供給量の極端な増減は緩和できるだろう。しかし、専門家の意見を総合すると、その容量や充電速度は年々徐々に改良されていくであろうが、画期的な進歩はここ数年見込めない。逆に言えば蓄電器の劇的な改良はスマートグリッドの進歩に大きな影響を与えるということであろう。NISTのSGIPでも最も重要な技術分野として位置づけられている。