ひとりの人間に可能なことは万人に可能である。 (ガンジー自伝より)

 対人交渉の基礎を学ぶ連載の最終回は、「相手主義」という考え方をテーマとします。

 相手を中心に考える。取り立てて目新しい考え方ではありません。古今東西言い尽くされてきたことともいえます。相手の立場に立って考える、とか、交渉相手の視点を自分のものにする、とか、いろんな言い方で言われています。ところが意外と実践されていないのです。それはどうしてでしょうか。


 相手主義の理屈はシンプルです。ところが、本当に相手主義を実践するには、自分主義ができていることが必要なのです。矛盾のように聞こえますか。自分を中心にして相手を見ることがまずできていないと、相手を中心に自分を見ることができないのです。

 コンサルタントとしてクライアントと仕事をしているとき、私は完全にクライアントの利益を優先して仕事を進めていきます。それは特別なことではなく、プロフェッショナルとしてごくごく当たり前のことです。

 クライアント中心に仕事を進めるというのは自己犠牲ではありません。自分がクライアントの利益を最優先して仕事を進めることが、とりもなおさずプロフェッショナルとしての自分自身の信頼やビジネスにつながっている、と心から納得しているのです。自分を犠牲にするのではありません。相手のためにすることがすなわち同時に自分のためでもあるのです。

 自分主義にけりをつける。この連載の冒頭で見てきたように、自分にとって何が大切であり、自分が何を欲しているかを明確にしておくことです。それによって自分主義を経過し、自分を超えて相手を中心にすることが容易に可能になります。