気になる問題に飛びつく前に

 今回は対人交渉にシナリオ思考の方法を応用していきます。

 前回は対人交渉スキルの心技体、学ぶべきことの全体像についてお話ししました。自分自身の知・情・意を点検し、優れた交渉者としてのあり方(Being)こそが、実際に何を行うか(Doing)以上に大切だということを見てきました。

 今回はいよいよ具体的な交渉シーンに臨んで何を準備するかを見ていきます。

 ここで皆さんは、「一番気になること」ではなく、「一番重要なこと」を学ぶインナーワークを行うことになります。感情や雰囲気にとらわれず、むしろ感情や雰囲気を包摂した合理的意思決定の基本です。

シナリオ策定活用のインナーワーク
  1. メタビジョンを描く
  2. ベストケースを描く
  3. ワーストケースを描く
  4. ありそうなケースを描く
  5. シナリオを左右する要素を洗い出す
  6. 制御可能な要素を洗い出す
  7. 譲れるポイント・譲れないポイントを挙げる
  8. アクションプランを策定する
  9. 現実のプロセスに従う

メタビジョンを描く

 どんな交渉ごとにおいても最も大切で最も見過ごしやすいステップがこれです。すべてが成功したときに世界がどのようになっていて、自分がどのようになっているのか。交渉ごとの特定の成果を超えて、自分自身がどんな世界にいるのかを想像して想定します。このメタビジョンが現在のリアリティを展望する上での視座を与えます。

 現在どんなに不透明な状況や困難な状況でも、自分が志したメタビジョンの立場に立ってリアリティーを眺めます。これが本当にできると、最初は「問題」や「課題」だと思い込んでいた状況が、実は「チャンス」や「リソース(資源)」であることに気付いたりします。

 現状に立って現状を見るのではなく、常にメタビジョンに立って現状を展望すること。優れた経営者が例外なく実践していることです。現状から将来を展望するのではありません。将来のメタビジョンから現状を展望するのです。