レオナルド・ダ・ヴィンチは、「初めに終わりを考えよ」と手記に書いています(岩波文庫『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』より)。

 これはもちろん芸術作品制作における基本中の基本です。何か作品を作る時、最初に完成イメージを考えるのです。

 ビジネスにおいてもこの原則と方法を徹底してマスターしていきましょう。

 まず、対人交渉スキルを身に付けたいと思っている皆さんは、それによって何を手に入れようとしているのでしょうか。それについても初めに終わりを考えます。優れた交渉スキルによって仕事の成果が高まる。仕事のペースが早まる。仕事の充実度が高まる。仕事の人間関係が広がる。仕事の可能性が膨らむ。

 優れた交渉者としての自分自身を思い描いてください。そのとき皆さんは対人交渉スキルを駆使して何をしているのでしょうか。

 優れた交渉者としての自分自身。これが出発点であり、同時に到達地点です。

常に終わりを考えているわけではない

 「初めに終わりを考える」ということは、文字通り「初めに」終わりを考えるということです。常に到達目標を考えているわけではありません。むしろ逆です。初めにゴールやビジョンを明確に思念しておくことによって、コミュニケーションのプロセスにおいて到達地点を意識しないようになるのです。

 交渉の最中に自分の目標のことばかり考えていては困ります。これはなぜかと言うと、ゴールやビジョンなど到達目標ばかりを考えていると、目の前で起こっている現実に十分な意識や注意を向けられなくなるからです。「終わり」を心に思い描いたら、それは心にしまっておいて、その目的意識から「今この瞬間」に展開しているリアリティに意識を向けることです。