2010年5月17日、ドワンゴは「ニコニコ生放送」というiPhoneアプリケーションを公開しました。これは、同社が開発・運営するPC向けのネットライブサービス「ニコニコ生放送」をiPhone上で楽しむためのアプリで、著者が開発に携わりました。開発が始まった経緯から、どのように開発され、サービスインに至ったか、アプリがどのような仕組みで動作しているのかまでを開発者自らが明かします。

 はじめに筆者とiPhoneについて少し語らせてください。筆者は、2009年6月よりソフトウエアエンジニアとしてドワンゴに転職しました。筆者に与えられた仕事は、ニコニコ動画モバイル(ニコモバ)という、携帯端末向けのニコニコ動画サービスの開発でした*1

 筆者は、プライベートな時間を使い、趣味としてiPhoneアプリケーション(以下、iPhoneアプリ)をいくつか開発していました。日中はドワンゴでニコモバの開発を行いつつ、家に帰ったら趣味のiPhoneアプリの開発を行う、という日々を送っていました。

 当時、社内で最も注目を集めていたサービスが「ニコニコ生放送」でした。ニコニコ生放送は、リアルタイムで配信される映像を視聴しながら、コメントやアンケートを楽しめるPC向けのネットライブサービスです。「ニコ生」と略して呼ばれることもあります。

 ニコ生では、ニコ生の運営スタッフが放送する「公式生放送」や、企業などが放送する「チャンネル生放送」、ユーザー自身がWebカメラを使って放送する「ユーザー生放送」といった生放送番組を視聴できます。この中でも、筆者はとりわけ「ユーザー生放送」にヒットの可能性を感じていました。

 ユーザー生放送では、高校生や大学生、社会人などの一般ユーザーが、その日の出来事を話したり、歌や楽器を演奏したり、コメントに返事をしたり、といったたわいもない内容がほとんどです。「素人がしゃべっているだけの放送を見て何が面白いの?」という声をたまに聞きますが、なぜかこれが面白いのです。

図1●iPhoneアプリ「ニコニコ生放送」の画面例
図1●iPhoneアプリ「ニコニコ生放送」の画面例

 また、ユーザー生放送では「外配信」という放送もよく行われます*2。これは、生主がノートPCとWebカメラ、通信機器などを準備して外出し、野外から生放送を行うものです。お祭りや花火大会の会場から放送したり、機材を車に搭載して、「車載放送」としてドライブの様子を放送したりします。

 生主にとっては、機材をそろえたり、持ち運んだりすることは大変な作業です。外配信や車載放送は楽しいものですが、この機材の搬入作業などがネックとなり、外配信したいのにできない、という生主も数多くいました。筆者は「誰でも手軽にユーザー生放送や外配信をできるような仕組みを整えられないだろうか…」と、手元のiPhoneを見ながら考えていました。そして、iPhoneを使えば生放送が配信できるのではないか、と思い始めたのです(図1)。