これまでMDMプロジェクトに携わるなかで、たくさんの方々と出会った。プロジェクト中に激しく議論し合った方もいれば、一見の営業訪問からいきなり激しいやり取りになった方もいらっしゃった。優しく和やかに過ごしただけの方より、こうした激しいやり取りをした(させていただいた)方のほうが印象に残っている。

 プロジェクトをやりきるには、方法論や他社事例の研究も有益だが、やはり「人」が決め手だ。そこで本論に入る前に、MDMプロジェクトで印象に残ったお二方をご紹介させていただきたい。

MDM人材像その1:若手コンサルから人望を集める武闘派のAさん

図1●Aさんの似顔絵
図1●Aさんの似顔絵
出所:アビームコンサルティング

 ある日の昼下がり、久々にお会いしたAさん(図1)と会話していると、だんだん白熱した議論となり、突然「だから愛が無いんだよっ! 愛がっ!!!」と語気を強めて語り始めた。

 Aさんが愛妻家であることは知っていたが「ここで恋愛論を語り始めるのか」とこちらは驚いた。しかし、そんな突っ込みを入れたところで、受け止めてもらえそうな様子ではない。じっとお話を伺った。

 するとどうやら「愛が無い」ではなく「Iが無い」と言いたいのだということが分かってきた。「テクノロジーではなくインフォメーションを重要視するべきだ」ということらしい。

 このようにAさんは、議論中に相手に突っ込みの余裕も与えず持論を熱く語ることがしばしばある。武闘派のオーラを全身にまとい、マスター定義書のレビューにおいても一言一句、一切の妥協なしで徹底的に議論を尽くす。

 そんなAさんだけに、当方の若手コンサルタントからはさぞ恐れられているに違いないと思っていたら、それが逆なのである。当社の若手は「Aさんがいる限りいつまでもマスター管理の仕事を続けていきたい」「 Aさんのマスター統合の夢の実現に向かってサポートできることが私たちの生きがいなんです」とさえ言い切る。

 ご存じのようにマスター管理の仕事は地道で、きらびやかさとは無縁である。そんな仕事に、若手をこれほどのめり込ませたAさんの人間力に、ただただ敬服するばかりである。

MDM人材像その2:仕事もプライベートも本質論を追究するBさん

 プロジェクト中に本質論を突き詰めて考えるのがBさん(図2)。その語り口に接してずいぶん頭の柔軟体操をさせていただいた。

図2●Bさんの似顔絵
図2●Bさんの似顔絵
出所:アビームコンサルティング

 「簡単だよ。要は『不易流行』だよ。変わるものと変わらないものを分ければいいんだよ」――。ホワイトボードへササッと十字線を引いてコツコツとマーカーでたたく。口調は軽やかだ。

 “フエキリュウコウ?”…私はそのときフンフンと分かったふりをしてうなずきつつ、こっそりと手元のパソコンにかな入力して言葉の意味を確かめた。

 言葉の意味を突き詰めたがるのがBさんの特徴だ。例えば、あるプロジェクト会議で私は何気なく「常識で考えるとですね…」と発言した。ところが、これがきっかけで「『常識』って何だ?」という激しい議論に発展した。「僕はタバコを吸っているけど、なんで止めないのか? と思うでしょ。世の中は禁煙のムードが高まっているし、常識で考えるとタバコを止めようと考えるよね…。だけどそれは、日本や先進国の中で考えた『常識』であって、途上国では逆に喫煙率は上がっているんだよ!」。

 若干、屁理屈に聞こえなくもない。いまだに真意も定かではないが、この言葉に妙に納得させられたことを覚えている。Bさんとは他にも「カマス理論」「男女格差論」「やむなし」「教育論」「おいしさ」「何のために仕事をするのか?」などなどたくさんのことについて本質を語り合い、学ばせていただいた。

 私にとって今やBさんはお客様でありながら、仕事でもプライベートでも人生で困ったことがあると真っ先に相談を持ちかける先生でもある。

 実は、その先生がおっしゃったことで、いまだに真意が分からない一言がある。「そんなの簡単だよ…企業内で本当に最後に残るのはマスターデータだよ」。私にとって考えれば考えるほど、全くもって謎の言葉である。