通信を効率化するキャッシュは著作権侵害になるの?

(イラスト・アニメーション:岸本 ムサシ)

  今回の回答者:
壹貫田 剛史
文化庁 長官官房著作権課
課長補佐

 動画配信サービスなどでは、キャッシュサーバーやバックアップサーバーを用意するのが一般的です。キャッシュサーバーは効率的な通信のために、バックアップサーバーは障害が発生したときのために使われています。どちらもサービスを提供するうえで重要なものですが、著作権の問題はどうなるのか気になったことはありませんか。

 キャッシュやバックアップは「著作物をコピーする」ことになる場合がありますが、2009年の著作権法改正によって、こうした行為は著作権侵害にはならないことが明確になりました。改正された著作権法は2010年1月から施行されています。

 法律が改正される前は、通信の円滑化や効率化のためのキャッシュやバックアップについて、著作権法上の位置付けが不明瞭でした。そこで著作権法の改正によって、こうした行為を「権利制限」の対象としました。

 著作権法では「無断で複製されない権利」を定めていますが、場合によってその権利を制限しています。これを権利制限と呼びます。例えば私的利用のための複製や、学校など教育機関での複製などは、一定の条件を満たせば著作権侵害になりません。改正後の著作権法では、権利制限の一つとして一定条件の下、「送信の障害の防止などのための複製」を加えたのです。送信の障害を防ぐための複製には、(1)アクセスを分散させるためのミラーリング、(2)ネットワークや機器の障害などに備えたバックアップ、(3)通信を効率化するキャッシュ──が該当します。

 この法改正によって、プロバイダーや携帯電話事業者、一般企業、大学などは、安心して国内にキャッシュサーバーやバックアップサーバーを設置できるようになります。一方のユーザーは、データ送信が効率化された快適なサービスを受けられるようになります。