先進国各国で進行している国家主導のブロードバンド普及政策の多くは、2010年代中盤から後半での達成を目標に、「9割前後の世帯に届くインフラ整備」と、「ブロードバンドのユニバーサルサービス化」をセットで推進している(表1)。

表1●各国のブロードバンド政策の概要
表1●各国のブロードバンド政策の概要
総務省資料を基に最新状況を反映した。
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 その中には、光ファイバー網を構築し、他社に公平に貸し出す専門の会社を設立するというソフトバンク案とよく似た計画もある(本特集の『[1]“使われないFTTH”の悪循環にメス』を参照)。例えばオーストラリアやシンガポールでは、NTTグループに相当するドミナント事業者が政府計画に協力し、アクセス回線部門を構造分離することを決めた。

 こうした事例が出てきたことが、総務大臣主催のICTタスクフォースで俎上(そじょう)に乗った「光回線敷設会社を作って、加入電話以下の料金で全世帯に光サービスを提供する」という案に強く影響したことは間違いない。

ADSL以外に競争が広がらず、国家主導へ

 ただ、国家主導のインフラ敷設計画が進んでいる国と日本とでは、以下の三つの点で事情が違っている。

 日本以外の国では、(1)複数の民間通信事業者がアクセス網に設備投資して競争するという環境がADSL以外に生まれていなかった。

 次に、(2)ブロードバンドインフラ整備は、雇用の拡大や教育水準の向上、産業の競争力向上など、大きな視点で必要不可欠と位置付けられている。

 そして、(3)規制対象となる国内最大の通信事業者が、アクセス回線以外の事業に十分取り組めている。

 国家主導でインフラ敷設計画が進行中の国すべてが三つの条件を満たしているわけではない。また、国によって環境は異なるため、それぞれの条件が与えている影響には濃淡がある。ただし、日本では、これらの三つの条件はどれも満たされていなかった。

FTTH事業を撤回した豪テルストラ

 (1)の競争状況について言うと、日本のように複数の事業者がアクセス回線も含めた設備ベースの競争を、FTTHサービス市場で繰り広げている国は極めて少ない。

 例えばオーストラリアでは、2005年にテルストラがFTTHサービスの事業化を企画した。ところが、その際に作るネットワークを他社に低廉な料金でオープン化するという競争ルールを設けられそうになった。結局、その規制を回避するためにテルストラはFTTH事業そのものを撤回した。

 その後、テルストラのアクセス網を分離する法案とセットで、政府100%出資の光ファイバー敷設会社、NBN Co社が設立されたため、設備ベースの競争は生まれなかった。

 どの国でも、新しく作る光ファイバー網を他社に廉価に貸し出し、その相手と競争しろと迫られることは嫌がられる。オーストラリアに限らず、「電話網とは別に構築した光ファイバー網にオープン化規制をかけている国は、日本のほかにはない」(NTT持ち株会社)という。

 一方でNTT東西は光アクセス回線を、どの事業者にも公平に貸し出さなければならない。分岐する回線を1本単位で貸し出す方式が導入されていないという議論はあるものの、KDDIは8分岐単位をまとめて借りて、都市部でNTT東西との競争を成立させている。

 こうした状況がある以上、アクセス回線会社による一元提供体制へ移行すれば、NTT東西だけでなく、その他の事業者の先行投資を無駄にしかねない。