2015年までにブロードバンドの普及率を100%にする「光の道」構想の推進にあたってICTタスクフォースが出した結論は、「競争をより一層促進する」という方針である。

 もともと、FTTH市場においては、「基本は、設備ベースの事業者間競争を重視した政策」(黒川和美法政大学大学院教授)が採られてきた。背景には、FTTHサービスを利用できる地域を早く広げたいという政府の思惑があった。多くのユーザーに電話用のメタル回線が最初から届いていたADSLサービスとは違い、FTTHの場合は新規ユーザーに1本ずつ光ファイバー回線を引き回していかなくてはならない。事業者は、莫大な先行投資というリスクを取る必要がある。

 2010年に通信業界を騒然とさせた光の道論争では、ソフトバンクが「独占的な光アクセス回線会社を共同出資で設立し、同社による世帯カバー率の100%化を目指す」ことを提唱した。だが、ソフトバンク案に対してはこれまで積極的に先行投資をしてきた事業者の反発が大きく、ICTタスクフォースでは採用されなかった。

 とはいえ現在、FTTHのインフラ整備率が9割超になったにもかかわらず、利用率(普及率)は3割台にとどまる。この現状は変える必要がある。つまり、設備競争を今後も重視するとしても、その具体策は従来通りではいけない、ということだ。

設備競争がブロードバンド速度を100倍に

 設備ベースの競争政策に対してソフトバンクは、「水道管のように同じインフラを2本引くのは無駄だ」(孫正義社長)と反論してきた。

 だが、ブロードバンドの発展の歴史をひもとけば、設備を持つ事業者の間の技術開発レースが有効に働き、サービス内容を進化させてきたのは明らか。性能向上やコスト削減につながる技術開発が継続しているブロードバンドの領域では、“インフラ”同士が競争することは無駄にならない。

 実際、NTT東西が2001年8月に鳴り物入りで提供を始めたFTTHサービス「Bフレッツファミリータイプ」の最大速度は10Mビット/秒だった。現在では、多数の事業者が100Mビット/秒以上のインターネット接続サービスを提供している(図1)。

図1●100Mビット/秒超サービスの投入時期
図1●100Mビット/秒超サービスの投入時期
設備ベースの事業者間競争によってブロードバンドサービスの性能は向上してきた。
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 100Mビット/秒以上のサービスを利用できる地域は当初、電力系事業者やCATV事業者、KDDIが参入している大都市に限られていた。だが、2009年10月にNTT東日本が「フレッツ 光ネクスト」の最大速度を200Mビット/秒に向上。2010年5月にはNTT西日本が1Gビット/秒のサービスを開始し、全国のほぼ9割の世帯で100Mビット/秒以上のブロードバンドサービスを利用できるようになった。