光の道構想の議論には約1年間を費やした。

 最終的には、2010年12月14日のICTタスクフォースと総務省政務三役の政策決定会合で、次の二つの方針に大きく整理された(写真1)。(1)FTTHだけでなく無線など多様な通信手段を使いながら、競争によって料金低下を促し、光の道構想の実現を目指す、(2)事業採算が見込みにくいエリアでは「公設民営方式」によってインフラ整備を加速させる---である。

写真1●ICTタスクフォース
写真1●ICTタスクフォース
写真は2010年8月31日に開催された部会の様子。

 これら二つの方針は日本の事情に即した現実解だが、本当に重要なのはここから先だ。政務三役が打ち出した「光の道」基本方針に基づき、早急に実効性のある取り組みを始めなければ、1年強の議論が無駄になる。

競争不全の光、NTTのシェアが74%に

 光の道構想についての論争は、「100%」の解釈などを巡って迷走を繰り返した。その原因の一つは、ソフトバンクの提案内容に振り回されたこと。インフラ面ばかりが議論され、反対に利用面の議論は少なくバランスを欠いてしまった。それでも今回の論争は、日本が直面する「ブロードバンド普及率の低さ」という課題とその原因を再認識するよい機会になった。

 日本のADSL整備率は99%に達する。さらに総務相の施策によって2011年3月末までにデジタルデバイドは“解消”する予定だ。ところが、ADSLとFTTHなどを合わせた日本のブロードバンド普及率は62.4%に過ぎない。つまり、インフラは充実しているのに、使われていない。総務省が2009年に調査した「ICTインフラに関する国際比較評価レポート」によると、日本はブロードバンドの料金と速度で1位につけながら、普及率は15位と低迷している。

 ADSLに代わり、日本でのブロードバンド回線の主役に躍り出たFTTH単体の普及率はさらに低い。インフラ整備率は91.6%だが、普及率は33.4%。最盛期は年間300万に届く勢いだった純増加入者数も、2010年度は210万となる見込みだ。

 FTTH市場は現在、全国規模の数字で見ると、NTT東西の独占傾向が強い。両社を合わせたFTTH市場のシェアは74.4%まで高まっている。電力系通信事業者やCATV事業者、KDDIなど、地域ごとに見れば競争相手は存在する。しかし全国規模でNTT東西と互するプレーヤーはいない。

 こうした中、FTTHの値下げは遅々として進んでこなかった。NTT東西は2011年度に光サービス単体で黒字化を達成すべく、先行投資は抑え、需要対応によってゆっくりと投資を回収する方針へ転換したように見える。

悪循環の打破には競争促進策が欠かせない

 NTTグループの独占傾向が強いまま、FTTHの料金が高止まりし、普及率が上がらない---(図1)。この悪循環を打破するには、より多くの人が魅力を感じるアプリケーションと、手頃な料金が欠かせない。FTTHの利用料は月額6000円前後だが、この料金水準を許容できるユーザー層をほとんど掘り起こしてしまったと仮定するなら、市場活性化のためには料金低下を促す政策が求められる。

図1●日本のブロードバンド普及率が低い原因の一つは競争が進んでいないこと
図1●日本のブロードバンド普及率が低い原因の一つは競争が進んでいないこと
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 光の道論争の際は、ソフトバンクが「共同出資の光アクセス網会社を作れば、月額1400円でFTTHサービスを提供できる」という大胆な案を示した。しかし、その試算には疑問の声が相次ぎ、構成員や他の通信事業者からの広い支持は得られなかった。

 FTTH整備率が9割を超えた日本の実情を考えると、もはや、公社的な、一種の保護政策の下でインフラを構築している段階ではない。事業者間競争を積極的に推進する政策のほうが適する。さらに、固定回線だけにとらわれず、LTEなど急速に技術進化を遂げる無線ブロードバンド回線を活用する視点も取り入れるべきだ。無線とFTTHが競合することで、FTTH市場のさらなる活性化も期待できる。