約380ページで、CPUの歴史から最新動向、GPGPUやメモリーチップまで、網羅的に解説するお得な一冊。著者は富士通などで40年間プロセッサ開発に携わった経歴を持つ。プロ中のプロが書いた本だけあって、要点を押さえた解説がわかりやすい。インテルのCore iシリーズなど、複雑化した最新CPUの内部構造を巧みに解き明かす。

 特にお薦めなのは第3章「[詳説]プログラマのためのプロセッサアーキテクチャ」だ。科学技術計算など、性能チューニングが重要な分野で役立つティップスを複数紹介する。例えば「除算(割り算)は遅い」ことはプログラミングの常識であるが、なぜ遅いのかは「除算は加減乗算より処理が複雑だから」くらいにしか評者は理解していなかった。この本では「除算の計算では部分商を求める回路を繰り返し使用するので乗算のようにパイプライン実行はできず」と説明している。除算が連続すると処理速度が下がるので、他の処理と混ぜて複数の除算が近接しないプログラムが良いのである。なるほど、これは知らなかった。

 「良品率、不良品率」の話も面白い。プレイステーション3が搭載するCPU「Cell」は8個の「SPE」(プロセッサ)を内蔵するが、稼働するのは7個。1個の不良の発生を許容している。この話を初めて聞いたとき「CPUでそのような設計思想がアリなのか?」と思ったが、この本を読むと、コスト削減のためマルチコアCPUなどでは冗長ブロック(使わないコアなど)を設けるのが当たり前の手法になりつつあるようだ。このような最新CPUに関する様々な知識を提供してくれる一冊である。

プロセッサを支える技術

プロセッサを支える技術
Hisa Ando著
技術評論社発行
2709円(税込)