ここまで3日間にわたり「2011 International CES」(CES2011)の取材レポートをお伝えしてきた。最終回にあたる今回は、CES2011の取材で感じた、三つの変化を紹介したい。
北米・西欧市場に追い付こうとしているアジア・南米市場
一つは、新興市場の台頭である。CEA(全米家電協会)と市場調査会社であるGfk Groupの発表によれば、2011年の民生用電子機器の売上予測でみると、北米と西欧の合計が3729億ドルであるのに対して、中国、アジア(日本を除く)、南米市場の合計は3570億ドルに達するとしている。全世界市場に占める割合では39%と37%。ほぼ拮抗することになる(写真1)。
北米と西欧市場の売り上げが落ち込んでいるわけではない。2009年以降の同市場の売上推移(および予測)をみると、3315億ドル、3610億ドル、3729億ドルと増えているのだ。しかし全体に占める割合は、43%、41%、39%と年々下がっている。要は、世界市場全体、特にアジアや南米などの新興市場が急成長しているのだ。
ちなみにCEAは、2011年の民生用電子機器の売上高は世界全体で9640億ドルに達すると予測しており、景気次第では1兆ドルを超える可能性もあるとみている。売上総額という点でも、2011年は区切りの年になるかもしれない。
参考までに、CEAの発表では、新興市場の台頭を指摘した経済トレンドに加えて、消費トレンドと技術トレンドにも触れている。消費トレンドについては「コネクティビティ(接続性)」「モビリティ」「パーソナル化」、技術トレンドについては「組み込みインターネット」「無線接続」「3D」が挙がっている。
マイクロソフトがPCからモバイルの流れに“ダメ押し”
二つめの変化は、コンシューマ向け機器の中心がパソコンからモバイルに完全に移った点。「何を今さら」と感じる方もいるかもしれないが、CES2011では米マイクロソフトが次世代WindowsでARMアーキテクチャーをサポートすると発表したことで、「ダメ押し」となったように思えた。パソコンでは盤石だったインテル製x86アーキテクチャーも同時にサポートするとはいえ、時代の流れがモバイル発の「低消費電力」のプロセッサーに向かっていることを象徴する発表だった。
展示会場でも、ARMアーキテクチャーに基づくモバイル端末が目白押しだった。Androidスマートフォンでは米クアルコムの「Snapdragon」が優勢だったが、タブレット端末では米NVIDIAの「Tegra 2」に勢いがある。いずれもARMアーキテクチャーに基づいている。
「世界中で最もエキサイティングなのはコンシューマ」
そして今回のCES2011で印象に残った最後の変化が、製品開発の視点が「人(ユーザー)」に移っている点。ここ数年、製品・サービス開発では「ユーザー体験(user experience)」の重視が盛んに言われているが、今回のCES2011ではさらにその傾向が強くなった印象を受けた。
米通信事業者大手のベライゾン・コミュニケーションズのイワン・サイデンバーグCEOは、CES2011の基調講演で「世界中で最もエキサイティングなもの、それは“コンシューマ”だ」と言い切り、コンシューマが何をし、何を欲し、何を考えるのかにひたすら注目していることを強調した(写真2)。このほか多くの講演で「新しいユーザー体験」「かつてないユーザー体験」が新製品・新サービスの売りだと繰り返し語られた。
それぞれの製品が本当に「かつてない」ものであるかどうかはともかく、多くの企業がユーザー視点で新しい体験を目指していることだけは間違いない。米フォード・モーターが電気自動車と連動するスマートフォンアプリを提供したり、充電スタンドとの連携による省エネ活動を提案するなど(前回の『[サービス開発]広がる“アップ・エコノミー”』を参照)、既存の商品領域の垣根を超えた提案も今回のCES2011では目に付いた。
一部の企業は「自社商品の進化」や「当該事業部の将来計画」を語ったが、むしろ商品は融合し、事業部の垣根はなくなる方向にあるのではないかと感じた。