国際競争力強化に貢献できる「企業内グローバリゼーションの推進」が今また、最も大事なテーマになっています。企業がこのテーマに取り組むのは、「国内売上比率より海外売上比率が上がっていた」と気付いたときがほとんど。それほど今の日本は、海外展開が進展したか、逆に国内依存への危機感が実感できたということでしょう。しかし、グローバリゼーションはボタンの掛け違え一つで失敗します。本連載では、失敗例を挙げながら、グローバリゼーションの本質に迫ります。

 筆者は20年近く前から、外資系企業や日本企業に身を置きながら、グローバリゼーションにおける「全体最適と個別最適のバランス」に頭を悩ませ、その解決に向けて色々な工夫や努力をしてきました。グローバリゼーションとはすなわち、グローバルでの“全体最適”と各国・各拠点の“個別最適”をいかに両立させるかという、最終回答がないような問題を解くことにほかならないからです。

 本コラムでは、企業がグローバリゼーションを実際に実行する際に、誤った戦略で実行した場合の例を題材に、企業のグローバリゼーションのあり方をヒモ解きたいと思います。なお、本連載では過去に展開したコラム「矢坂・基盤デザイン研究所」の内容に連動する形でテーマを掘り下げていきますので、こちらも併せてご覧ください。

 また読者のみなさんからも是非、ご意見・ご質問を頂戴し、それにお答えするインタラクティブな形で進められればと考えています。筆者の提案から活発な議論が生れ、それが日本企業のグローバリゼーションの将来展開を担うITリーダーの一助になればと切に願うからです。

海外比率が高まって初めて取り組む「平準化」

 海外拠点は一般に、その地域でのビジネスを最大化するために、法制度や商習慣に併せてビジネスモデルや業務プロセスを「個別最適」しています。この海外拠点の「個別最適」に対し、黙認から尊重へ切り替わるのは、企業にもよりますが、その地域・拠点の売り上げが、ワールドワイド(全世界)の売り上げに占める割合が2桁を越えたあたりから始まります。

 ただし、個別性を重んじる企業、特に日本企業には“緩やかな統制”が傾向値としてあります。そのため、各拠点の貢献度というよりも、日本を除くROW(Rest of the World)の売上比率が50%を超えてきて初めて、重い腰を上げることが少なくありません。

 いずれにしても、海外拠点に目を向けた経営陣が、最初に発する号令は、「プロセスの標準化によるコストの平準化」です。

 一概にプロセスの標準化といっても、それぞれの部門で考え方が違い、アクションに至るまでのスピードも違います。IT部門はどうでしょうか?上記のような「プロセスの標準化」の号令が下ったとき、IT部門は何をすべきでしょうか?

インフラやアプリケーションの統一は“手段”

 この号令がかかったときに、IT部門が犯しやすい誤りは、「テクノロジーによるグローバリゼーションの推進」といった、あいまいなテーマで目標を掲げてしまうことです。挙句に「全世界のインフラとアプリケーションの統一を推進する」ことを目標に掲げ、本社の視点から基幹システムやインフラの統一を推進してしまうのです。結果、各国から総スカンを食うことにもなるわけです。

 既にお気づきかと思いますが、「全世界のインフラとアプリケーションの統一」は手段です。経営陣が推進する「プロセスの標準化」も同じく手段なのです。これら「プロセスの標準化」や「全世界のインフラとアプリケーションの統一」の先には、その企業にとって到達すべき“あるべき姿”がなければなりません。

 上記のようなケースは特異例だと思われますか?残念ながら、「プロセスの標準化」の先にある、到達すべき目標を全社員が理解できるように明示している企業のほうが少ないのが実状です。

 あいまいな目標は、グローバリゼーションの推進を阻害するだけではありません。企業のそれぞれの部門が戦略連結性のない、ばらばらな目標を立て、2~3年後には何の結果も残せず、ただコストだけが出ていくことにもなりかねないのです。