現政権が「脱小沢」に傾斜し、その影響が少なからずICT政策の予算配分まで及ぶ現状では、ICT政策の推進はやはり旧来通り、官僚に頼らざるを得ない。

 ICT関連政策の中心は、総務省と経済産業省であり、両省のせめぎあいが各所に見受けられるのは業界の常識である。今回はその動向を解説したい。

交錯するICT関連組織

 歴史的に、コンピュータというハイテク機器は経済産業省の所管であった。古くは、1960年代のコンピュータ草創期に、国内進出を図るIBMに規制をかけ、国産企業連合を形成して国内産業育成を図ってきた。これはドラマにもなったぐらい有名な話である。当時のコンピュータは、通信網といっても専用線か、構内回線ぐらいにしか接続されていなかった。

 1970年代以降、銀行オンラインに象徴される社会的なインフラにコンピュータが利用されるにしたがって、通信業界を所管する総務省の出番がやってきた。1990年代に入ってインターネットの時代になると、コンピュータと通信の境界は曖昧になり、かつて、情報技術(IT)と呼ばれていたものが情報通信技術(ICT)と呼ばれるようになった。こうなると経済産業省と総務省の所管領域はかなりの部分で重なり合い、政策、予算化の面で二重構造が生じる。

 日本ではさらに科学技術を振興する文部科学省があり、文部科学大臣と科学技術担当大臣とが分別されている。例えば、コンピュータというハイテク機器の産業は経済産業省が育成するが、2009年の事業仕分けで有名になった世界最先端のスーパーコンピュータ開発は文部科学省である。国家としてのICT戦略は内閣官房の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下、IT戦略本部)」が所管し、名目的な本部長は内閣総理大臣であるが副本部長として所管するのは科学技術担当大臣である(図1)。

図1●政府内でのICT政策関連組織
図1●政府内でのICT政策関連組織

 このように複雑な組織構造で目立ったリーダーシップのないままにICT政策が進められてきた。主要国では、既に情報通信省のような形で統合しているのだが、日本官僚の縄張り争いの激しさがそれを許さず、前回触れたように与党が「情報通信文化省」を構想してもあっと言う間に封殺されてしまう。情報通信文化省設立には強力な政治主導が必要だが、残念ながら現在の民主党にはその意志が希薄である。したがって、当面はICT政策に関して、総務省と経済産業省の相克が続くことになる。