「脱小沢」と国家ICT戦略とは、一見何の因果関係もなさそうに見えるが、意外にも政治の底流部分で深い関係を持っている。それは、民主党内でのICT議論の中心が「親小沢派」にあり、菅政権が「脱小沢」で支持率向上、政権浮揚を狙う限り、ICT戦略とそれを実現するための予算において大きな逆風となるからだ(図1)。そのあたりの事情を順を追って説明したい。

図1●菅政権におけるICT関連政策の相克の構図(2011年年頭段階)
図1●菅政権におけるICT関連政策の相克の構図(2011年年頭段階)

 2009年の政権交代まで、民主党にはICT戦略というものがなかった。ITバブルが話題になったのはもう10年も前の話で、当時から原口前総務相はITに関心があり、これまでも電子行政に関して積極的に提言してきた。

 ITバブル崩壊以来、ITは票にならなくなり、野党としての民主党は急激にITから遠ざかっていった。2005年から2006年にかけて民主党の松井、古賀、梁瀬議員が、特許庁、日本郵政公社、社会保険庁(当時)の情報システムに関して、主にNTTデータのデータ通信役務サービスを中心に国会質問した以外は、ICTに関してはほとんど目立った活動がなかったのだ。

 もちろん、原口前総務相のように個人的な勉強会でICT議論を重ねてきた方々もいたのだが、民主党全体としては重要度が低かった。

 しかし、政権交代してからはそういうわけにはいかない。2010年3月時点、内閣でICT戦略をリードしていた当時の原口総務相が裏方となり、数社のIT業界大手企業がそれに呼応する形で舞台を整え、2010年4月に民主党情報通信議員連盟(以下、IT議連)が誕生し、7月に控えた参議院選挙に向けて「情報通信八策」を公表した。あらためてその内容を確認するとともに、筆者が見た2010年末時点での予算化、議論の進捗をチェックしてみよう(表1)。

表1●民主党情報通信議員連盟「情報通信八策」(2010年4月14日発表)の2010年末時点での進捗
表1●民主党情報通信議員連盟「情報通信八策」(2010年4月14日発表)の2010年末時点での進捗
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 進んでいるのは、利活用推進の法制化、特区制度などの法的対応の検討と、スマートグリッド推進、ITS(高度道路交通システム)継続、ホワイトスペース活用の4点である。これらはすべて自民党時代から議論され着々と準備が進められていたものなので、筆者としては民主党の加点ポイントとは評価できない。

 国家CIOの議論はいつの間にか霧消してしまい、情報通信文化省構想は役人の猛反対で議論にすらならなかった。光の道構想は、事業仕分けや政策評価会議で厳しい議論にさらされて約2割の予算カットとなり、フューチャースクールに代表される教育関連のデジタル化も同様にかなりカットされた。原口ビジョンから継続された国内ICT投資倍増は、IT業界が非常に高い期待感を持って注視していたが、新成長戦略の段階で骨抜きになり、この旗がまだ立っているかすら確認できない。