1月14日、菅内閣発足7カ月にして2回目の内閣改造が行われ、菅第二次改造内閣が誕生した。つい先日まで「たちあがれ日本」共同代表だった与謝野氏が経済財政担当相として入閣したことで、海江田氏は経済産業相に横滑りし、海江田氏が担当していた科学技術担当相は玄葉国家戦略相が兼務することとなった。これらの政治情勢がどのように国家ICT戦略である「新IT戦略」に影響するのかを解説したい。

 「私が入っていないのは奇異な感じがする。国家戦略相との任務分担をやって入っていくべきだと思う」。2010年11月2日の記者会見を受けて、新聞各紙は海江田経済財政・科学技術・宇宙開発担当大臣(当時)のこのようなコメントを載せた。「海江田はずしの玄葉寄せ」を本人が認めた形である。

 ここで海江田大臣が「奇異」に感じたのは、予算編成に関する関係閣僚会議と包括的経済連携に関する関係閣僚会議の双方に、経済財政担当大臣としての自分が入っていないという現実である。国家戦略相とは民主党政調会長を兼務する玄葉国家戦略担当大臣のことだ。

 確かに経済財政担当大臣が予算編成に関する関係閣僚会議に入っていなかったのは奇異と言える。そこで新聞各紙は、2010年9月の民主党代表選挙で小沢氏を推した海江田氏への当てつけではないかと勘ぐったわけだ。

 これをICT業界の視点で見てみると、実はさらに明確な「玄葉寄せ」が存在していることがわかる。

 国家ICT戦略は、科学技術担当相の職掌であるが、実際には「新たな情報通信技術戦略(以下、新IT戦略)」の予算付けの確認や進捗管理は、海江田大臣(当時)が担当していた内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下、IT戦略本部)ではなく、玄葉国家戦略相が所管とする「新成長戦略実現会議」で行われているのだ。ここでも「海江田はずし玄葉寄せ」がなされていた。

 確かに「新IT戦略」は「新成長戦略」の重要な要素であるから、その実現会議で議論されるのは論理的である。また、IT戦略本部では、「国民本位の電子行政に関するタスクフォース」「医療分野の取組に関するタスクフォース」「ITSに関するタスクフォース」の3つのタスクフォースを現在も粛々と進めている。

 しかし、新IT戦略自体の予算化のチェックと計画の進捗管理がIT戦略本部でなされないのであれば、この本部の戦略的な位置付けは骨抜きにされたのも同然といえるだろう。

 新IT戦略について海江田大臣(当時)は、内閣府和田政務官から毎月の定例会議でたまに報告を受けていたようだが、これとて他府省の政務三役会議と比較すると寂しい限りの政務二役会議だ。つまり、ここまで政府では、国家ICT戦略を担うべき海江田科学技術担当相(当時)が新IT戦略でリーダーシップを発揮する余地はほとんどなかった。

 1月14日の内閣改造で、玄葉国家戦略相は、これまで海江田氏が担当してきた科学技術担当相も兼務することとなった。これで、国家ICT戦略に関する「玄葉寄せ」が完成したわけだ(図1)。玄葉国家戦略相は民主党政調会長を兼務するので、民主党のICT政策をも所管する立場ではあるが、これまで同氏が新ICT戦略策定に貢献したという話は聞いたことがない。つまり現在、新IT戦略は内容に精通した実質的なリーダー不在の状況なのである。

図1●国家ICT関連組織
図1●国家ICT関連組織

 ただし、これには異論もある。それは「科学技術担当相だった川端前文部科学大臣だって、新IT戦略構築にそれほど深くかかわっていなかったではないか。それと比べれば現状はさほど悪くない」といった議論だ。だが、これはICT戦略を所管する科学技術担当相のリーダーシップ不在という政府の根本的な欠陥という意味では何ら前向きな議論ではないし、川端前科学技術担当相の時代に実質的なリーダーシップをとっていた原口前総務相が更迭された現状では、かなり状況は悪化しているといえるはずだ。