NHKは、2011年4月1日に衛星デジタル放送サービスとして提供しているBS1、BS2、BShiの3チャンネルを二つに集約、「BS1」と「BSプレミアム」として提供すると発表した。また、2011年7月24日には地上アナログ放送と一緒に、BSアナログ放送も完全に停波する予定である。

アナログBS放送の再送信はケーブル局の判断によりケースバイケース

 筆者は、これまでの数年間にわたる取材を通して、全国のケーブルテレビ局が実施するBSアナログ放送の再送信サービスが、以下のようなタイプに分けられると理解している。今後は、BSデジタル放送のチャンネル数削減や、アナログ完全停波により、ケーブルテレビ各局の実情は大きく変わる可能性がある。

<パターン1:アナログHTで受信>
 2011年夏以降もアナログホームターミナル(HT)サービスを続ける予定であるため、局独自のスクランブルをかけた上で、ケーブルテレビ配信用の物理chで再送信しているケース。局によってはHDTV映像をSDTV映像にダウンコンバートした上で、BShiも配信しているタイプもある。

<パタ-ン2:ミッドバンドでアナログ再送信>
 既にアナログHTサービスを終了しているが、地上アナログ放送の再送信とともに、BS1とBS2をノースクランブルで再送信しているケース。多くの局はVHF帯域のうち、アナログテレビの受信調整を行えば選局が可能なミッドバンドにそれらを配置している。(都市部でのビル陰共同受信施設など、過去に高層ビル等の所有者が当該建物の起因する難視聴世帯のテレビ受信を担保とするために、費用を負担してアナログテレビ共同受信施設を作ってきたという経緯がある。関東では電力送電鉄塔に起因する同施設も散見されるが、これら施設は、その地域に設立されたケーブルテレビに接続されることにより、多チャンネル放送の視聴環境が整ってきた。近年、デジタルSTB(セットトップ・ボックス)の導入によって多チャンネル放送のデジタル化が進んでいるが、少なくとも2011年7月24日までは、ビル陰難視聴世帯向けのサービスを維持する必要があるためこのようなケースが続出している。

<パターン3:民放キー局も再送信、アナログHTで受信>
 NHKのBS局再送信に加え、キー局系の民放BS局もデジアナ変換を行った上で配信しているケース。地上テレビの難視聴対策としての施設から発達した地方のケーブルテレビ局で散見される。アナログホームターミナルの世帯が多い局でもある。

<パターン4:トランスモジュレーション方式でデジタル再送信
 デジタルサービスで提供する。BSデジタル放送再送信をトランスモジュレーション方式を用い、変調方式を64値QAMに変換する。専用のセットトップボックスが必要となる。集合住宅などではBSデジタル放送を本来の画質で視聴するには、個々の世帯がケーブル局と契約しなければならない仕組みである。

再送信の施設利用料は様々

 地上デジタル放送をケーブルテレビ局のヘッドエンドでアナログ放送に変換して送信する「デジアナ変換サービス」提供の要請が、総務省から各地のケーブルテレビ局になされている。アナログテレビやレコーダーを買い換えずとも、当面の間は地上テレビ放送サービスを受信できるようにするためである。

 もともと難視聴地区を取り込んできたケーブルテレビ局のユーザーの中には、集合住宅を中心にアナログ放送を無意識のうちにケーブルテレビ経由で受信してきた世帯も少なくない。そのケーブルテレビ局エリアの視聴者の多くが、ビル陰等の難視聴地区対策世帯である現状を物語っているものだ。

 ところが、2011年7月24日以降をにらみ、地上波のデジタル化を機にビル陰等の難視聴対策施設を廃止して、全国の数多くの地域で直接UHFアンテナを建てて地上デジタル放送を受信するケースが増加している。この場合、視聴者はNHK衛星放送の視聴を続けるには、BSアンテナも個別に建てないといけなくなる。

 こうした地域では、もともと多くの世帯がケーブルテレビを通してアナログ放送を視聴してきたため、ケーブルテレビ局はデジタルSTBの加入者を増やす営業機会を確保しようという意図が働いている。共同住宅を中心に、全体が賃貸マンションであり大家に対し1軒でも加入するのであれば店子からは個別の利用料を徴収せずに、場合によってはブースターの交換費用なども局が負担して、1棟全体に地デジ及びBSデジタル放送の信号が通るようにする加入営業も見受けられる。もともと難視聴対策に、ブースターや配線ケーブルに一定の質が確保できているため、比較的改修コストをかけずに各世帯の地デジ化が可能な背景もある。

 現在、VHFアンテナのみで地上テレビが受信できていた首都圏では、UHFアンテナを設置していない集合住宅について、ケーブルテレビサービスと、「フレッツテレビ」あるいは12月にNHKのBS放送の再送信が開始された「ひかりTV」などのブロードバンド回線を利用したテレビサービスが、顧客の囲いこみに懸命である。

 視聴者が施設利用料を支払うインセンティブが最も働くであろうBSデジタル放送の受信について、「HTを用いたアナログのパック(ハイビジョン番組はダウンコンバートされる)」、「デジタルの再送信専用メニューを用意し、デジタルSTBで受信する」など複数のケースがあるが、各局による伝送サービスの料金は同じケースでもばらばらである。NHKの衛星特別契約による受信料は、番組が標準画質にダウンコンバートされても同じである。その一方で、伝送サービスに対するコストは、NHK以外の放送の再送信も含む施設利用料が各局によってばらばらで、無料のところからHTやSTBのリース料金まで含む場合だと千円近くに達するところまで様々である。視聴者からは、施設利用料の考え方がわかりにくく説明してほしいという声が、ケーブルテレビ局に対して出てくるだろう。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。