ヒューマンスキル分野の“有名人”、田中 淳子氏と芦屋 広太氏による特別対談の第3回。自分の部下や受講生に対して、どのように接するかを二人の経験を基に語ります。壁にぶつかることは大切であり、必要なことだと強調します。

(構成:田中 淳=ITpro

部下や受講者で「この人、行き詰まっていそうだな」と感じる場合、どうするのですか。

田中: 研修は大抵、1日か2日程度なので大きな影響を及ぼすことはできないのですが…それでも、気になる発言をしたり態度をとったりしている方とは特に話をしますよ。受講者も、2日くらい仕事を離れていると気が晴れることはあるかもしれませんね。

田中淳子氏
写真:宮原 一郎 撮影場所:グローバルナレッジネットワーク

 ただし、1社向けの研修だとうまく行かないこともありますね。みな同じ文化にいるから、妙に分かりあってしまう。公開講座のように色々な人が集まる研修であれば、同じ年代でも全く異なるものの見方をする人がいるんだ、自分の考え方が正しいとは限らないんだ、と刺激を受けて、自分を見直すきっかけになるケースがあるようです。

 それから女性の場合、女性特有の悩みがあるような気がします。出産のタイミングや産休といった…。「田中さん、ずいぶん長く働いているんですね」とそれだけで安心して帰る人もいました(苦笑)。男性はどうなんですか?

芦屋: まあ、行き詰っているかは見てすぐ分かりますね。自分もそうだったから。

悪い考え方に固執する人は伸びない

芦屋: で、その人にアドバイスできるかというと、これがなかなか難しいんですね。何というか、壁が越えられないというのは、少し厳しい言い方をすると自分の考えがまだ緩いという面がある。自分のできることで解決しようとしがちなんですよ。

田中: ああ、分かる、分かる。

芦屋: その考え方に固執しているようでは、壁を乗り越えるのは無理だろうと思うんですよ。例えばシステム開発で企画やPM(プロジェクトマネジャー)の立場では、自分にとって不都合なこと、無理なことを要求されるケースってよくあります。

 そういうとき、壁を乗り越えられない人って、「いや、それはできない」とできない理由を一生懸命探そうとする。エクセレントな「できない理由」を考えるんですよ。不都合なことは断るというのは人間の本能ですから。

 でも、そのやり方では立場が強い人には勝てない。「やります」と一回受けたうえで、「けれども」と返すという技術を身につけないと、強いマネジャーにはなれないんです。

 でも、自分の考え方にしがみついている人にそう言っても、「そんなことをしたら、何でもかんでも押しつけられてしまうじゃないですか」「芦屋さんの言ってることはちょっとおかしいんじゃないですか」とみたいに、反発をくらうケースがほとんどです。聞く耳を持たないと言いますか。

 書籍や連載を書くときも、このあたりが最も難しいんですよ。聞かれれば、解決策はほとんどの場合、言うことができます。しかし、相手がその解決策を受け入れる状態になっていない。それどころか「この人、何を言っているんだ」と、かえって怒られたりしてね。正直、こちらも面倒くさくなってしまう。

田中: すごく分かります。

芦屋: そういう人に、そのままアドバイスしてもうまくいかない、ということは分かりました。一方で、「教えてください」とちゃんと聞いてくる人もいます。そういう人は伸びますね。

 今までやってきたこと、私はスキルセット、マインドセットという言い方をしていますが、そのなかで悪いものを一回捨ててみなさい。ゼロにしてみなさい。そのうえで、よくできる人のいいところを学びなさい。このようなことを言うと、考え方が大きく変わってくるんですよ。