株式会社MORE・CAL代表取締役社長 熊澤壽

 2008年頃には、新聞やテレビで毎日のように“派遣社員問題”が報道されていました。

 未曽有の景気減退に直面し、多くの企業はこの対応に追われる宿命を背負っています。前職で人事・総務・IT(情報技術)を束ねる「執行役員管理本部長」という職に就いていた私も、派遣社員の人事管理に関しては数多くの経験を有しております。

 現在は無くなったようですが、以前在籍していた会社では「営業アシスタントは原則として派遣社員」というノンリトゥンルール(就業規則・採用基準などにない不文律ルール)が存在しました。

 これは、「営業事務は顧客数や取引件数・金額によって業務量が変動するので人件費も変動費化するのが理想である」という考えから来ています。

 ここ数年問題になっている派遣社員の契約解除は、企業にとってみれば“予定通り”の行動です。そのための“人件費の変動費化”なのですから、正直言って企業側は「何で非難されないといけないの?」という心境になっているのではないのでしょうか?

 この問題に対して「派遣社員の大量解約は企業としての社会的使命を果たしていない」とする意見が多いのですが、今回、私はIT投資の視点から論じます。私は日本の企業が反省すべき問題点は“出口”(派遣契約を解除する)よりも、むしろ“入り口”(派遣契約の締結、あるいは正社員採用)にあると考えています。

 入り口の問題とは、企業側が景気の向上やビジネスの拡大に際して、適正な人員数とIT投資の精査、さらには徹底した業務改革を行わなかったことです。現場が要求するまま安易かつ泥縄式に従業員の増加を黙認してきたことが、派遣社員の大量解雇問題として表面化したと言っても過言ではありません。

 話が違うように思われるかも知れませんが、例えば、3000万円のIT投資を実施するケースを考えてみましょう。ほとんどの場合、予算を取れても役員会決議を必要とし、ROI(投下資本利益率)をはじめとする導入効果や機能説明に多くの人員を割き、場合によっては数カ月かけて役員会に決裁を仰ぐことになります。

 反面、従業員1人を採用する際に役員会決議が必要でしょうか?当然必要ありませんね。しかしながら、従業員1人を採用すると、正社員の場合で福利厚生費や教育研修費などの給与以外の経費を含めると年間600万~700万円、派遣社員の場合で約500万円のコストが発生します。

 3000万円のIT投資を5年間で均等に償却すると年額600万円になる訳ですから、従業員1人採用するのと損益計算書上は同等のインパクトになります。

 にもかかわらず、なぜ従業員の採用は低位の決定権者による無造作な実施が許されているのでしょうか?私は従業員の採用時にもROI(投下資本利益率)の説明義務を設けるべきだと思います。そうして初めて有効で最適な人員配置が実現できるのだと考えます。