クラウドコンピューティングの展開が、より現実的になってきた。多くの企業が、単に仮想化テクノロジーの実装だけではなく、これからの本質的な活用と運用を見据えた“次の一歩”を探し求めている。本稿では、データ量が指数級数的に増える“情報爆発”の影響を大きく受けるストレージ環境について、企業が考慮すべきトレンドと、その現実解を提言する。

ガートナー リサーチ リサーチ ディレクター
鈴木 雅喜

 ストレージ領域のテクノロジーは、この10年で革新的に変化した。さらに今後数年の間には、再び大きな変化が起ころうとしている。こうした変化は、企業にコスト削減機会を与えるのみではなく、企業のビジネスに対してより有効なIT基盤の構築を可能にする。企業は、自社のストレージ環境について、これまでの10年を振り返り、不足する部分があれば、それに対処しながら効率的に新しいテクノロジーの導入を検討すべきである。

■ガートナーの推奨事項
・企業はストレージ責任者を任命し、あるべき姿を効率的に追求せよ
・今後、少なくとも2~3年間はストレージ領域に大きな変化が生ずると理解し、コスト最適化と効率性改善の機会を逃さない
・ストレージのコスト最適化の実現に向け、企業はストレージの購買をサーバーとは分離し、複数ベンダーを検討することで過度なベンダー依存から脱却せよ

 図1は、ストレージ管理の展開モデルである。このモデルを用いることで企業は、これまでの取り組みと今後の方針を再点検できる。

図1●ストレージ管理の展開モデル
図1●ストレージ管理の展開モデル
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 展開モデルの前半部分は、ここ10年間のストレージ管理の進化の歴史を示している。2000年頃に、SAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)やNAS(ネットワーク接続ストレージ)が話題になり、ITインフラにおけるストレージを、アプリケーションやサーバーとは切り離して、水平に見る視点が強まった。

 これに対応して米国の大規模ユーザーは、ストレージ統合を実現するために2001年から5年程度の間に、ストレージ専任組織を次々と発足させた。専任組織の管理下でストレージ統合を実現した。共用化された基盤の中で、階層型ストレージを構築することで静的な最適化を図ってきたわけだ。

 現在の多くのユーザーが位置しているのは、四つ目の「効率化技術展開」と「仮想化と選択的クラウド活用」の領域であろう。特に今後3年の間に普及する革新的技術を展開することや、仮想化インフラの構築と拡大、選択的なクラウドの活用、などの重要性が高まっていく。

 しかし、図1で重要なことは、むしろそれ以前の三つ目までの活動の中身である。これまでストレージ責任者を置いて、この領域のトレンドを理解し対処してきたのであれば、その活動を振り返り、十分であったかどうかを念のため確認すべきである。

 一方、ストレージ領域にこれまで十分に対応できなかったのであれば、三つ目までの対応について、今後どのように対処していくべきかを考慮すべきだ。でなければ、仮想化とプライベートクラウドのトレンドが進行するに伴い、ストレージ領域について、ベンダーへの依存度をさらに高めねばならない状況が生まれ、購買と効率性の両方が犠牲になるリスクが高まる。企業は自社のストレージ領域への対処と今後の戦略について再点検すべきなのだ。