100年に1度と言われた世界同時不況。だが、すべての企業に同じ影響をもたらしたわけではない。従って景気回復への道も複数あり、業界の動向や地理的な相違、企業の競争上のポジションによって、さらに複雑になる。CIOは、自社戦略に合致したIT行動計画を策定し、景気回復期を100年に1度のチャンスに転換できるよう舵取りしなければならない。

ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 最上級アナリスト
デーブ・アロン

 つい最近まで、ITおよびIT部門が企業または経営に貢献できる分野は、ビジネスプロセスの改善にあった。効率性と、有効性、堅牢性、俊敏性を高めることだ。しかし今、ITが企業の成功に貢献できる分野は、これまでの内部プロセスの改善を超えるようになってきた。すなわち、イノベーション (革新) 領域での貢献である。

■ガートナーの推奨事項
・CIOは、イノベーションを創出するITの貢献領域を考え、これに沿って計画を策定する
・CIOは、社内の全スタッフに情報を伝え、イノベーションへの意識を高める
・CIOは、経営トップや役員と連携し、堅牢な需要統制プロセスを確立する
・CIOは、ビジネス戦略の透明性と明快性の確保に努める

ITが貢献する三つのイノベーション領域

 ITが今後、貢献できる領域には、大きく以下の三つがあることが分かっている。

製品とサービスのイノベーション:外部の顧客とのコミュニケーションに、情報およびITを活用する。

 例えば、スウェーデン鉄道は、電車の輸送能力を最大化するという企業目標に沿ってIT環境を活用し、これまで未利用だった輸送能力を大幅に改善した。空席の指定券を発車の48時間前からネットでオークションにかけ6時間前にはメールで通知される仕組みでITが新たな市場を開拓したというものだ。

 また米国の自動車保険会社であるプログレッシブ保険は、車載テクノロジーを活用して、顧客の運転行動に基づいて保険料を設定することで差別化を図っている。具体的には、保険契約者に専用の種々のセンサーが埋め込まれた車載装置を搭載してもらい、運転者の運転記録を取っている。急ブレーキ・急発進の様子などが克明に記録され、エコ運転を心がけていたり、安全運転を実行している運転者には、次回更新時に保険料が割引されるというサービスを提供している。

ビジネスモデルのイノベーション:ITによって、キャッシュフローやリスクの形、顧客との関係基盤をはじめとするビジネスモデルを根本から変革する。

 スウェーデンのボールベアリングメーカーであるSKF(Svenska Kullagerfabriken)は、ボールベアリング製品とサービスに基づく一連の情報と知識を統合させることで、ボールベアリングという製品の販売から、マシンの稼働時間を販売するというビジネスモデルに移行している。

 きっかけは、生産が中断されるような生産装置に故障が発生する前に異常を検知するための仕組み作りだった。ボールベアリングが故障し、装置が突然停止すること防ぐために、遠隔監視システムを導入した。これにより、実質的に故障がないベアリングを提供することにまず成功した。これをさらに発展させ、生産装置の稼働時間に対して料金を徴収するというビジネスモデルに転換したのだ。

マネージメントのイノベーション:意思決定の方法、チーム編成の方法、知識共有の方法など、企業の管理者層の業務環境を変革する。

 現在複数の企業が、コラボレーションを進めるためのサービス実験に取り組んでいる。具体的には、従業員が持つ時間に対する入札と売買を支援する社内エクスチェンジや、業務とは関係なく従業員が好きなことに取り組むハックデイのような手法、従業員の非常に限定された分野の知識と経験を流通させるなどだ。

 さらに、社内のすべての情報、すなわち人事・給与や、経営決裁に関する情報までを全社員に公開、更に、全社員が決裁権を持つことにより、階層化組織が無くなり、間接費用が極小化され従来では有り得ないほどに効率が高い経営に成功した企業が現れている。