クラウドコンピューティングの台頭や消費者向けテクノロジーの進化など、現在の社会とテクノロジーは、これまでの常識を超えた歴史的転換点を迎えている。こうした大変化の中だからこそ、IT部門は中長期的な変化を予見し、ビジネス成長のためのIT戦略を確立する必要がある。本稿では、中長期的なITの方向について、現在起こっている変化を元に予測する。

ガートナー リサーチ バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト
亦賀 忠明

■ガートナーの推奨事項
・テクノロジーのメガトレンドについて、これまで以上に感度を上げる
・中長期トレンドが自社に与えるインパクトを探る
・最初から「関係ない」とせず、常識を超え、ビジネス機会とリスクを洗い出す
・テクノロジーのメガトレンドを受け、中長期戦略を策定、もしくは改定する
・機会とリスクが大きいと考えられる場合、経営会議での議論とする
・リスクについては、「変わらない」ことに関するリスクについても検討する
・イノベーションをスマート(インテリジェント)に実行できる人材と能力を戦略的に獲得・擁立する(人材への戦略投資)

変えられなくても変わらざるを得ない時

 ガートナーが2010年8月に、日本のユーザー企業のインフラ担当者に尋ねたところ、86%が「現在のあり方を変える必要がある」としながらも、74%は「考えているのは守りの戦略である」と回答した。このことは、変えたくても変えられないジレンマを、多くのユーザー企業が抱えていると考えられる。

 しかしながら、変えられなくても変わらざるを得ない場合もある。それは、世の中が大きく変わる時だ。そして、現在の社会とテクノロジーは、これまでの常識を超えた歴史的転換点を迎えている。その代表が、クラウドコンピューティングの台頭と、消費者テクノロジーの進化である。両者を前に企業は、変わらざるを得ない状況にある。

 クラウドコンピューティングは2020年までに、ITはもとより、ビジネスや社会、人類のすべてに大きなインパクトをもたらす(図1)。

図1●クラウドの将来
図1●クラウドの将来
短期的には「ITのクラウド化」、中長期的には「ビジネスサービスのクラウド化」が加わる
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 その過程において、現在見られるITのクラウド化の議論、主にコスト削減の観点の議論は、早晩、ビジネスの成長と革新の議論へと変わる。そこでは、クラウドコンピューティングが、社会や、国家、人類、ITベンダーやインテグレータなどの役割と位置付けをどう変えていくかについて考察する必要がある。