トヨタの「プリウス」にかかわるブレーキ問題やリコール問題は、日本製品の品質が低下した印象を与えた。だがデータで見ると品質レベルは上がっているという。本書は、品質問題が社会問題化する理由と、その現実を受けた新しい品質管理の姿を論じる。

 本書によれば品質問題が大規模化する原因は二つある。トヨタを例にすると、一つは同じモジュールを複数車種で使うようになったことで一つの不良が影響する範囲が広がったこと。もう一つは品質管理の対象が「見える不良」だけでなく「見えない不良」も含むようになったことである。ブレーキの問題はユーザーの感覚で発生する「見えない不良」である。

 筆者は、こうした状況に対して「品質リスクの管理」を念頭に置いた、新しい品質管理が必要であると指摘する。品質リスクの管理は、報道による過剰なマイナスイメージの広がりを防ぐために欠かせないという。

 併せて「情緒的な品質」の向上を訴える。この情緒的品質こそが日本が誇るべき品質で、それは三つのSから成るとする。すなわち、感動を与える「ストーリー:物語性」、限定品や希少品を流通させる「サプライコントロール:希少性」、きめ細かい付帯サービスを与える「サービス:機微性」である。

 こうした三つのSを品質や品質リスクの管理に取り入れるためには、「品質創造本部」を社内に置き、経営レベルで取り組むべきと筆者は主張する。もちろん「見えない不良」を見えるようにすることや、品質管理拠点をグローバルに分散すること、「品質の番人」を育成することなど、足元の強化も大事と説く。

 本書は主に消費財を対象にしているが、本書のポイントである(1)品質管理と品質リスク管理の両立、(2)「見えない不良」に対する顧客との共闘、(3)情緒的品質への組織的取り組みは、いずれもITにおいても求められているといえよう。その意味で、品質管理関係者だけではなく、CIO(最高情報責任者)やシステム部門長にも気付きが多い。

評者:好川 哲人
神戸大学大学院工学研究科卒。技術士。同経営学研究科でMBAを取得。技術経営、プロジェクトマネジメントのコンサルティングを手掛ける。ブログ「ビジネス書の杜」主宰。
「日本品質」で世界を制す!

「日本品質」で世界を制す!
遠藤 功著
日本経済新聞出版社発行
1680円(税込)