“システム屋”歴30年を自任する佐藤治夫氏は、ダメ3部作(「ダメな“システム屋”で終わりますか?」「ダメな“ユーザー企業”を叱る!」「ダメな“システム屋”にだまされるな!」)で、自らの経験を基にIT業界の内実を辛口で述べてきた。その佐藤氏に2010年のIT業界を振り返ってもらった。(編集部)

佐藤 治夫
老博堂コンサルティング 代表

 2010年は私の記事をお読みいただき、ありがとうございました。本稿の最後に、連載を振り返る意味でアクセスランキングを紹介します。報・連・相を振りかざすダメ上司や、「大丈夫でない」状況を許さないダメ上司に手を焼く“システム屋”は多いようです。状況を改善するため、少しでも参考になればと思います。

 以下で、2010年のIT業界を振り返るとともに、2011年を展望したいと思います。

 IT業界に流行語大賞がもしあれば、2010年の大賞は「クラウドコンピューティング」が当選確実でしょう。多くのITベンダーやシステムインテグレーターがクラウドに踊った1年でした。しかし一方で、多くのユーザー企業は慎重だったかもしれません。

 1年前の今ごろを振り返ると「2010年は政権交代後の民主党を中心とした新しい政治体制の下で、日本経済はリーマンショックから立ち直る。IT業界では、クラウドコンピューティングが流行するなど、大きな変化と需要の波が押し寄せる」といった予感があったように思います。しかし、そうはなりませんでした。

簡単には変わらない日本企業

 日本の政治構造がそう簡単には変わらなかったように、日本企業の情報システム利用の構造も、そんなに短期間で変わるものではありませんでした。10年前の2000年前後、「eコマース」「電子商取引」が米国経済を大きく変えた時も、日本経済は同じスピードでは変わりませんでした。一方、20年ほど前の「ダウンサイジングの波」は、米国同様、一気に日本企業の情報システムを変えたように記憶しています。

 日本企業は明らかに学習しつつあります。世界に進出して久しい製造業や商社だけでなく、外資が日本に参入してきた金融・流通・サービスを含め、多くの業種・業態において日本企業は賢くなりつつあります。

 一方、インターネットでの販売は無理だと思われてきたファッションの世界で、2010年に飛躍したサイトが登場しました。その1つがZOZOTOWN(ゾゾタウン、運営はスタートトゥデイ)です。広大な国土を持つ米国に比較して、そもそも日本では電子商取引の相対的効果は小さいと思われていたものの、東京・原宿などファッション先進地区と日本全国を結ぶという秀逸なコンセプトのもと、きれいな画像と使い勝手の良いサイトが受け入れられたようです。

 また、電子書籍の分野でも、単に文字を電子化するにとどまらず、画像や音楽を組み込んだ新たな媒体という演出で注目を集めるところが出てきました。

 ところが、日本のITベンダーの多くは「当社はクラウド営業担当者を何十名に増やした」などと言いながら営業攻勢をかけましたが、大きな成果は得られなかったようです。どうやら、欧米発の流行に即座に乗ろうとするITベンダーが成功することはなくても、日本の良さや特長を練ったうえで、ITの新しい潮流を積極的に取り込もうという企業が頭角を表してきたようです。