日経Linux編集長 米田正明

 ITpro読者のみなさん、あけましておめでとうございます。さて、2011年はLinuxの世界にとってどんな年になるのでしょうか。

 Linuxはすでにサーバーや組み込み、クラウドでは広く用いられています。今年は特に仮想デスクトップ、カーネルの仮想化機能「KVM」の本格普及が予想されます。Linuxディストリビューション「CentOS 6」では、仮想化機能をKVMに一本化。KVMで用いられる仮想マシンのIOスループットを高速化技術「vhost-net」や、デバイスの仮想化のボトルネックを解決する「SR-IOV」も、クラウド等で採用が始まるでしょう。Linuxの重要性はさらに増すに違いありません。

 そうした中、今年最も大きなインパクトとなるのが、やはりLinuxベースのOS「Android」の台頭でしょう。スマートフォン用のOSとして見ても、Androidは今年、大躍進します。IDCのレポートによると、「2011年は国内スマートフォンの競争構図は一転し、Android端末がiPhoneを逆転します」。このAndroidという突風はスマートフォンだけではなく、Linuxの世界やCPU、組み込み、そして、クラウド、PCの世界まで吹きこんできます。ITの世界で生き残るためには、これに備えなければなりません。Androidの台頭は何をもたらすのか。いろいろと考えられますが、年初のコラムですので、可能性の高さは無視して予測してみましょう。

 まずピュアなLinuxカーネルに近いところでは、“ポストPC時代”を担うスマートフォンやタブレットPC向けのCPU市場で英ARMのコアを採用するSoCメーカーと米Intelとの競争が激化し、それによってLinuxカーネルが二つに割れるかもしれません。IntelのCPUは、PCやサーバー市場では支配的ですが、スマートフォンの世界ではARMの天下です。スマートフォンは大抵、ARMのCPUコア「Cortex-Aシリーズ」を使っています。Intelの「鉄腕Atom」はスマートフォンの世界で、Cortexで動くAndroidロボットに勝てない状況なのです。

 今のLinuxカーネルは、Intelのx86をはじめ様々なCPUアークテクチャに対応しており、AndroidはARM向けのカーネルを標準で使っています。ただARMコアを持つSOCベンダー各社は、自社チップに合わせて独自にカーネルを修正して配布しています。あまりにもカーネル本家との差が大きくなれば、場合によっては既存のカーネルとは実質的に独立したものとなるかもしれません。実際、昨年ARMのSoCベンダー各社が集まり、ARM用Linuxカーネルを開発する「Linaro」を立ち上げました。Intelが今年出荷予定の新型CPU「Medfiled」と「Android-x86」でどこまでCortexロボットに対抗できるのか、目が離せません。

頑張れ! Windows

 Androidスマートフォンが一気に広まり、CPUメーカーなどの競争によりタブレットPCも高性能、高解像度化していけば、「Androidタブレット」が、ポストPCとしてオフィスに本格的に入っていくかもしれません。店頭や工場で使われえる専用端末としてではなく、オフィスのPCを置き換えるのです。あなたが今、この記事を読んでいるそのWindowsパソコンが、Androidタブレットに置き換わる。ここでAndroidに力を貸すのが「クラウド」や「仮想デスクトップ技術」です。

 例えば、こんなイメージでしょうか。

 職場にいくと、机の上にはWindowsパソコンは無く、Bluetoothキーボードが置いてある。カバンの中からAndroidタブレットPCを取り出して、キーボードの後ろにセットする。この写真よりは画面が大きく解像度も高いタブレットだ。外で見られなかった社内メールを確認し、グループウエアでスケジュールを管理。表計算ソフトはもちろん、クラウドにある。Google Docsだ。会議には、手帳やペンではなくそのままタブレットPCを持って行く。大きい液晶に表示された図や写真、動画を見せながらの発言は説得力を増す。そして外出時は、そのままタブレットをカバンに入れるだけである。

 大抵の業務はAndroidでこなせるが、昔から使っていた業務アプリはWindows XP上でしか使えない。そういう業務にはもちろんWindowsを使う。ただしWindowsが稼働するのはオフィスのパソコン上ではなくクラウドだ。Amazon EC2などクラウドで動くWindowsのデスクトップを仮想デスクトップを使って、Android上に表示する。いわば「Windowsエミュレータ」である。昔、これと似たようなことをWindowsがしてきたように(図1)。「これからはオープンシステムの時代です。既存のIBMの3270端末は、Windowsパソコン上の3280エミュレータで代替できます」――。ダウンサイジングの影響で、IBMが創業以来初の大赤字を計上したのが1991年。今年でちょうど20年だ。踏ん張れ、Windows!

図1●
図1 IBMの3270端末はWindows上の3270エミュレータに代わっていったが…

 と、いいたいところですが、もちろん現在はまだタブレットは発展途上であり、こういった使い方が今年一気に広まっていくことはないでしょう。けれども3年後のWindows XPのサポート切れを前に、そろそろWindowsの代わりにAndroidタブレットを導入しようか、と考える企業が現れるかもしれません。