2011年は企業情報システムの在り方が大きく変わる変革の年となる。「デフレ」「M&A」「グローバル化」などの言葉に代表されるように、企業を取り巻く経営環境が激変する一方で、クラウドコンピューティングが本格的な普及期を迎え、スマートフォンなど新端末の活用も焦点になる。情報システムだけでなく、情報システム部門自体もシステム開発・運用の担当者から「ITサービスの提供者」へと変革を迫られる。

 まず経営環境の変化の観点で言えば、国内市場の縮小、新興国市場の勃興という新たな経営環境に直面し、すべての企業が否応なくグローバル化を急がざるを得なくなった。2011年にはこのトレンドは加速し、特に中国での市場開拓は日中間の政治レベルの摩擦にかかわらず、あらゆる企業にとって最重要課題になりつつある。グローバル展開を意識した日本企業によるM&A(合併・買収)もますます盛んになっていくだろう。

情報システムも海外へ、そしてビジネスの前面へ

 そうした海外市場の開拓や海外でのM&Aが活発になってくるに従い、企業のIT投資も海外向けの比重が高まる。それぞれの海外拠点で独自に構築された情報システムを統合する、いわゆる「グローバル統一システム」を構築する動きも加速するはずだ。情報システム部門も組織面や人材面からグローバル対応を迫られる。2011年はまさに「情報システムのグローバル化元年」と言ってよい。

 さらにグローバル、国内を問わず、「儲かるシステム」を構築する動きも活発になる。儲かるシステムとは企業の収益に直接貢献する情報システムのことである。こう書くと当たり前のことのようだが、従来の情報システムはこの点が曖昧だった。2011年には、売り上げの拡大に貢献したり、新しいビジネスを創出したりするための情報システムがこれまで以上に求められるようになる。

 情報システム担当者がビジネスの前面に立つ機会も増えるはずだ。情報システム担当者の創意が新規ビジネスを成功に導いた事例や、ITを活用した異業種間コラボレーションの事例などが数多く登場し、情報システム担当者がビジネスのど真ん中で活躍することが当たり前のこととなるだろう。

クラウドとスマホで究極の“持たざるIT”を実現

 テクノロジー面では、クラウドコンピューティングは単なるブームの時期をすぎ、パブリッククラウドではSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)などの形で、様々な“使えるサービス”が登場している。ユーザー企業自身がプライベートクラウドを構築するのも、もはや普通のこととなった。

 こうした中、2011年には自前で作ったプライベートクラウドと外部のパブリッククラウドを連携させる取り組み、いわゆる「ハイブリッドクラウド」の事例が数多く登場するだろう。プライベートクラウドもPaaSやIaaSなどのパブリッククラウド上に構築する形が一般的になる。ITベンダーも自社の技術やクラウドサービス、さらに他のベンダーのクラウドサービスなどを組み合わせて提供する力が求められるようになり、SIer(システムインテグレーター)からSIer(サービスインテグレーター)へと進化する。

 日本企業がグローバル展開を加速させていることも、クラウドの急速な普及を促す。情報システムのグローバル化元年は、クラウドのフル活用によって実現する。日本国内、あるいはアジアの拠点で独自のプライベートクラウドを構築し、全世界の拠点向けに“サービス”を提供することが一般的になる。信頼性・可用性の高いIaaS上にERP(統合基幹業務システム)を載せ、グローバルに提供する事例も珍しいものではなくなるだろう。