「この機を逃すと日本は世界各国に取り残され、IT後進国になりかねない。経団連は政府の積極的な取り組みを評価しており、着実な実現に向けた協力を惜しまない」。日本経団連副会長を務める渡辺捷昭トヨタ自動車副会長は、番号制度の早期実現に向けた財界の意思を力強く表明した。

写真1●日本経団連副会長を務める渡辺捷昭トヨタ自動車副会長
写真1●日本経団連副会長を務める渡辺捷昭トヨタ自動車副会長

 経団連は2010年12月15日、「番号制度に関するシンポジウム ~豊かな国民生活の実現に向けて」と題するシンポジウムを開催。政府が制度設計を進めている「社会保障・税に関わる番号制度」について、早期の導入を実現できるよう、積極的に協力していくことを宣言した。

 同シンポジウムは、経団連が11月16日に公表した提言「豊かな国民生活の基盤としての番号制度の早期実現を求める」の中で明記した世論喚起の活動の一環である。国民の関心・理解を深め、制度などの基盤整備を加速させる狙いがある。

 会場の経団連ホールには経団連会員企業の経営者を含む約500人が来場し満席になったほか、ニワンゴによるインターネット生中継「ニコニコ生放送」は4万4932人の視聴者を集め1万6984件のコメントが書き込まれるなど、盛況だった。

「番号制度は目的ではなく、ツールである」

 渡辺経団連副会長の主催者挨拶に続いては、政府・与党の社会保障改革検討本部で事務局長を務める峰崎直樹 内閣官房参与が来賓挨拶として登壇。1980年代の「少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)」の頓挫など、番号制度に関わる過去の数々の失敗を振り返り、「政治の意思が確立していなかった」ことを原因に挙げ、「なんとしても今回は実現したい。不退転の決意で進める」と力を込めた。

 政府は、実務検討会が12月3日に公表した「中間整理」を基に、「何のために番号制度を導入し、どんな社会を目指すのか、抽象的ではなく分かりやすい言葉」(峰崎氏)で、タウンミーティングなどを通して国民に訴えていく考えである。同時に、地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)や日本年金機構、医療保険者(全国健康保険協会と健康保険組合)などの実務機関との連携を強化する方針も明らかにした。

 続いて基調講演に立った経団連評議員会副議長・電子行政推進委員長を務める内田恒二キヤノン社長は、「番号制度はそれ自体が目的ではなく、情報処理を行うためのツールである」と強調。多くの国民が望むサービスを実現するために、ツールとして番号制度が必要になると訴えた。企業の立場では、従業員の年末調整に伴う税務署(所得税)・市町村(住民税)との書類のやり取りにかかる時間や事務コストを例に挙げ、番号制度と電子化によってこうした非効率を改善すべきと訴えた。

写真2●経団連評議員会副議長・電子行政推進委員長を務める内田恒二キヤノン社長による基調講演
写真2●経団連評議員会副議長・電子行政推進委員長を務める内田恒二キヤノン社長による基調講演

 また、番号制度の導入による電子行政基盤強化の前提として、行政事務の業務改革やBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の重要性を強調した。「非効率な業務をIT化しても、非効率なシステムができるだけ」(内田氏)と、社会保障と税に関わる番号制度だけでも6000億円以上と見込まれるシステム投資コストを正当化するためには、得られるメリットを最大化するための取り組みが欠かせないとした。

 シンポジウムは続いて、富士通による番号制度の活用イメージのデモンストレーション、東アジア国際ビジネス支援センター(EABuS)の安達和夫事務局長による「海外における番号制度の不安解消に向けた取り組み」の紹介を行い、最後に「番号制度をいかに国民生活に役立てるか」をテーマにパネルディスカッションを実施した。