Q 毎年,夏になると疲れやすくなって困っています。食欲が落ちて全身がだるくなり,客先を回るのもつらくなります。今年もこれから夏本番ですが,何か予防策はあるでしょうか。(男性,29才,SE)

 よくある「夏バテ」パターンですね。夏バテは,夏特有の慢性疲労現象です。どこかが痛むわけではなく,「ボーッとする」「だるい」「集中力がない」「肩こりがひどい」「むくみが出る」など,漠然とした疲労感が主な症状です。その主な原因は,暑さによる体温上昇や,それを下げるための多めの発汗,発汗に続く体内の水分不足による血流量の減少です。血流量が減ると,それを補おうと心拍数が増えます。その結果,自律神経系が疲労し上記のような症状が起きやすくなるわけです。

 夏バテ対策の第一は,体温調整と水分補給です。暑いけれど湿度が低い欧米では,かいた汗は皮膚からしっかり蒸発します。このとき,体表から気化熱が奪われて体温が下がります。このため,欧米の夏は暑苦しくないのです。一方,日本の夏は気温も高いうえに湿度も高いので,汗をかいても効率よく蒸発せず,気化熱による冷却効果は即効性がありません。汗をかいたらよく拭き取って涼しい風に当たるなど,意識して体温を調整しましょう。

 また,こまめに水分を摂取することが大切です。お茶やミネラルウォーター,薄めたスポーツドリンクをお薦めします。缶コーヒーは胃に負担をかけますし,缶ジュースやそのままのスポーツドリンクは割と糖分が多いので,特に糖尿病の傾向がある人は飲みすぎを避けるべきです。汗で失われるのは水分だけではありません。塩分やミネラル成分も一緒に流出します。これらは,薄塩で中くらいの大きさの梅干しを毎日1個とる程度で補給できます。

 暑いときのビールはこたえられませんが,ビールは夏バテを助長することがあるので注意が必要です。アルコールを消化するには,体内の水分を利用します。加えて,アルコールには利尿作用があるので,飲めば飲むほど体内の水分は減少し,脱水状態になりやすいのです。アルコールを飲む際は一緒に水分の摂取も忘れずに。

 栄養バランスや生活リズムにも気を配ってください。「暑いと食欲が出ない」と言って,朝食を抜いたり,そうめんやそばといった麺類ばかり食べている人がいます。しかし,こうした食生活では栄養バランスが崩れて,体力が落ちます。うなぎや豚肉,野菜など,エネルギー代謝を促すビタミンB群を含む食品を積極的にとりたいものです。

 食が進まないときは,食材を工夫しましょう。らっきょうや大葉,みょうがといった香味野菜のほか,しょうがやわさびといった香辛料が食欲を刺激します。どうしても食欲が出ない場合は,バナナを1本食べるだけでも,エネルギーやミネラルを補えます。

 睡眠不足も,夏バテの引き金になります。毎日定時に寝る,ぬるめの風呂に入る,就寝前にトイレに行く,寝る前に食事をとらない,など安眠のための工夫をすることです。空腹で眠れないときはバナナを1本食べてください。寝酒は眠りを浅くします。お酒を飲むなら,就寝1時間前まで。日本酒なら1合にとどめましょう。

 寝苦しい熱帯夜は,冷房器具を上手に利用してください。クーラーなら,室温設定を27~28度くらいに保ち,風量は弱めに。扇風機を使う場合は,風を体に直接当てず,天井に当てて間接風にすると,冷えすぎを防げます。

浜口伝博
産業医
産業医科大学医学部卒業,専属産業医として東芝,日本IBMに勤務し,産業医活動のほか,健康管理システム開発を手掛ける。2005年9月からハマーコンサルティング代表。日本産業衛生学会理事,日本橋医師会理事,産業医科大学非常勤講師。著書は「健康診断ストラテジー(バイオコミュニケーション,共著)」など多数。日本産業衛生学会認定指導医,労働衛生コンサルタント