Q ここ半年以上,仕事に集中できず,家に帰っても眠ってばかりいます。問題が後から後から頭に浮かんできて,心が休まらないからです。それでいて,こんな自分自身にも嫌気が差して落ち込む日々が続いています。(男性,27歳,SE)

 身体的に異常がなければ,質問者は「気分変調性障害」の恐れがあります。気分変調性障害は従来,「神経症性抑うつ状態」とか「抑うつ神経症」と呼ばれていました。「軽度のうつ病」と呼ぶこともあります。

 気分変調性障害は,悲しみとむなしさが入りまじった「抑うつ気分」に1日中とらわれ,それがダラダラと2年以上続く精神状態を指します。つまらないことが気になって頭から離れず,こだわってしまいます。例えば,「上司は自分を評価してくれない」「私が無能だからこうなるんだ」「どうせ自分はもてない。だから恋愛もできない」などと1人で落ち込んでしまうのです。

表1●気分変調性障害のチェックリスト
抑うつ気分のほか,下の項目が二つ以上当てはまれば気分変調性障害の可能性が高い
表1●気分変調性障害のチェックリスト

 抑うつ気分のほか,表1のチェックリストの中に当てはまる項目が二つ以上あれば,気分変調性障害である可能性はさらに高いと言えます。

 気分変調性障害は,「深く傷ついた」「見捨てられた」という体験が原因である場合がほとんどです。

 例えば,職場でミスしたときに上司に「何をやってるんだ。責任取れよ」ときつい口調で言われた,「あいつだったら,いない方がまだましだ」などと陰口をたたかれた,同僚から冷たい態度や目つきをされた,家族から「もっとしっかりしてよ!」と責められた――。こうした体験を通じて,誰にも理解されないむなしさがうっ積し,ついには「自分なんかいない方が皆が喜ぶ」と思い込むようになります。

 その結果,物事の見方や考え方がゆがんで独りよがりになり,なおさら悲観的になる,という悪循環を引き起こします。以前なら気にならなかったような周囲の言動に過敏に反応し,落ち込むようになってしまうのです。人間の脳は繰り返しに弱いもの。思考がマイナスのスパイラルを描くうちに,「自分はいない方がいい」「どこにも居場所はない」といったネガティブな思考が無意識のうちにしっかりと刻印され,抑うつ気分が長期にわたって続いていきます。

 気分変調性障害の症状を緩和して,抑うつ状態から脱出するには,「ポジティブ思考」に変えていくことが重要です。

 そのためにはまず,生活の中でうまくいっている事柄を徹底的に探し出し,そこに思考の焦点を合わせます。さらに,ささいな失敗があっても「神様じゃないんだから,ミスすることもあるさ」と楽観的に考え,自分を認めてあげることです。これで,ずいぶん楽になるはずです。

 ただ,気分変調性障害に陥る人は完璧主義であることが多く,ちょっとした失敗も見逃せない傾向にあります。このため,上のようにポジティブに考えるのはなかなか難しいようです。そうした場合は,プロのカウンセラーを訪ねてください。物事の見方や考え方を修正して気分を変え,最終的に行動を変容させる「認知行動療法」が,効果を発揮しています。

武藤清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。関東心理相談員会会長。日本精神保健社会学会副会長。著書に「雑談力」,「号泣力」(いずれも明日香出版社),「本音力」(ロゼッタストーン)など