今回は、コミュニケーションとマネジメントに関する現場の成功テクニックを見ていく。また、記事の最後には、アジャイル常識度テストを掲載したので、ぜひ挑戦してみてほしい。

コミュニケーション編:座席を一変、昼会・夕会で補う

 メンバー同士がギクシャクする、ユーザーの協力を得られない、必要な情報を共有できない──。コミュニケーションの失敗は、こんな具合に表れる。もちろんウォーターフォール型でも見られることだが、報告や連絡、相談のほとんどを対面で行うアジャイルは、こうした失敗が発生しやすい。

座席レイアウト一つで円滑に

 クラウドサービスの開発でアジャイルを適用するユーフィットの林 伸哉氏(ソリューションビジネス事業部 ソリューション企画部 ナレジオン推進室 室長)は、メンバー間のコミュニケーションを円滑にしたいと考えていた。当時、各メンバーは向かい合わせに座っていたが、隣の人としか会話をしない。テスターは結果を伝える際にメンバーの席を忙しそうに回る。PMを務める林氏も、すべてのメンバーに目が行き届かず、問題の把握や指示が遅れることがたびたびあった。

図1●活発なコミュニケーションを促す座席レイアウト
図1●活発なコミュニケーションを促す座席レイアウト
向かい合わせに座るレイアウトではメンバー同士がコミュニケーションを取りづらい。ユーフィットの林 伸哉氏らのチームは、各メンバーのコミュニケーションが円滑になるように座席レイアウトを工夫した
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 そこで実践したのが、活発なコミュニケーションを促す座席レイアウト(図1)。改善後のレイアウトはこうだ。まずフロアの中心にPM、ITアーキテクト、テスターから成る“島”を作った。そして島を囲むようにコの字型にプログラマが座る席を設置した。

 たったこれだけで、効果はてきめんだった。中心にいるテスターはテスト結果を周りのプログラマにすぐに伝えられる。新たに加わったITアーキテクトは、プログラマの画面が背後から分かるので、自然と技術支援を行えるようになった。ペアプログラミングの実践だ。PMの林氏もメンバーの状況をつぶさに把握しやすくなり、問題があった場合の指示や対応も早くなったという。

 ただプログラマの席を固定にすると、やはり隣の人としか話をしないメンバーが出る。そこで林氏は、プログラマの席をフリースペースとし、空いている席に自由に座れるようにした。

 林氏は「こうした工夫によって、コミュニケーションが円滑になり、チームが活性化した」と自信を見せる。開発生産性にもよい影響が表れたという。

ユーザーの負担を下げるアジェンダ

 アジャイルではユーザー側のメンバーがチームに参加する機会が多い。要求の詳細化や優先順位の見直し、レビューなど、イテレーションの回数分協力してもらう必要がある。ユーザーの負担は確実に増える。もしユーザーの作業が滞れば、そのまま進捗の遅れという形で表面化しかねない。ユーザーの負担をどうやって軽減するか。これは開発チームの腕にかかっている。

 TISの岡 玲子氏(産業事業統括本部 サービス&コミュニケーション事業部 サービス第1部 統括マネジャー)は、PMを務める新規プロジェクトでアジャイルを採用したとき、ユーザーの負担をどう軽くするか考えた。BtoCサイトの構築で、機能や画面が多岐にわたり、ユーザーレビューが多くなることが予想されていたからだ。

図2●ユーザーの負担を軽くするレビューアジェンダ
図2●ユーザーの負担を軽くするレビューアジェンダ
頻繁に発生するレビューがユーザーの負担を高める。TISの岡 玲子氏は、事前にレビューアジェンダを配布。ユーザーの負担を軽くするよう工夫している
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 そこで取り入れたのが、レビューアジェンダである(図2)。一見、レビュー会議の単なる開催通知に思える。だが、その内容には岡氏ならではのさまざまな工夫が施されている。

 例えば、冒頭で開催時間を示しているが、ここに「目標終了時間」がある。なるべく短い会議にすることをユーザーに宣言し、負担を軽くすることを目指すチームの姿勢を明確にしている。さらに、メンバーが同様の質問を繰り返す恐れがある項目は、岡氏が事前に取りまとめ、アジェンダに明記した。会議の場で共有するためである。

 レビューの観点も事前に説明する周到ぶりだ。「あれこれ細かく書くのではなく、最低限確認してほしい項目だけ書くのがポイント」と岡氏は話す。また、確認事項は技術的な観点でなく、業務的な観点で書く。例えば「項目Aに2種類のフラグが必要ですか」とするのではなく、「男女の区分は必要ですか」と、アジェンダに書く。

 特徴的なのは、レビュー対象の機能や画面を確認できるリンク先を示した点だ。各プログラムは共有サーバーに登録しており、そのリンク先をたどれば、ユーザーは時間があるときに内容を確認できる。これで会議の時間をさらに短くできるわけだ。

 岡氏は「わずか1枚のアジェンダで、ユーザーの参画度合いはみるみる変わる」と説明する。もっとも、アジェンダを作成する手間や時間は掛かる。それでも「ユーザーの負担が減り、プロジェクトに参加しやすくなれば、結果的に速く安くシステムを完成できる」(岡氏)とその効果を強調する。

昼会と夕会で不足を補う

図3●コミュニケーション不足を補う昼会と夕会
図3●コミュニケーション不足を補う昼会と夕会
アジャイル開発では通常、朝会と振り返りを会議体として設ける。インテックの木村慎吾氏らは、これだけではコミュニケーションが不足すると判断。これを補うために昼会と夕会を取り入れている
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 インテックの木村慎吾氏(ネットワーク&アウトソーシング事業本部 N&Oプロダクト部 システム第一課)は、アジャイルにおける会議体に独自色を出す1人だ。アジャイルでは通常、朝会と振り返りという二つの会議体を設けるが、これでは足りないと判断。木村氏はその理由に「技術的な話題を議論する場がない」「その日の問題を把握する場がない」という二つを挙げる。そこで、新たに「昼会」と「夕会」の二つの会議体を設けた(図3)。

 アジャイルでは、1人のメンバーが設計・実装・テストを一貫して行う場合が多く、それだけ技術スキルが必要となる。これを補うのが昼会だ。2週間に1回、45分程度、技術的な疑問や問題を解消する。硬い話題が続くので、昼食を取りながら進めるようにした。

 夕会は、次の日に回せない重大な問題の有無を確認する場。問題があれば個別に対応する。「朝会は対策が後手に回る。それを回避するため、10分程度の短い報告の場を設けた」(木村氏)。